写真はイメージです

「孝行のしたい時分に親はなし」という言葉がある。『大辞泉』(小学館)によると、親が生きているうちに孝行しておけばよかったと後悔することだという。では親孝行とは何だろうか。一般的に旅行や食事に連れて行くことなどだと言われているが、本当に親はそれを求めているのだろうか。

ここでは家族の問題を取材し続けるライター沢木文が、子供を持つ60〜70代にインタビューし、親子関係と、親孝行について紹介していく。

東京都郊外の高齢者向け一人暮らしをしている義親さん(75歳)の家族は離れて暮らす45歳の長女のみだ。7年前に次女(当時34歳)を病で亡くし、その3年後に2歳年上の妻も73歳の若さで、彼岸に渡ってしまった。その悲しみを支えたのが長女だという。

【これまでの経緯は前編で】

疲れやすくてめまいがする」受診後、即入院

妻と一卵性母娘だと言われていた次女は、いつまでも実家にいた。同世代の友人たちが家庭を持ち始めた20代後半あたりから、妻との距離はどんどん縮まっていったという。

「一緒に旅行に行き、仕事帰りに待ち合わせをして映画や食事を楽しんでいた。安くておしゃれで美味しいお店をよく知っており、2人で食べ歩いていました。妻は年齢よりも若々しく、“娘っていいわよね。家族は気を使わずに遊びに行けるからいい”とよく話していました」

しかし、30歳を過ぎ、一向に結婚の気配がないと、心配し始めた。父である義親さんは28歳のときに、30歳の妻と結婚している。当時としては晩婚であり、長女出産は32歳、次女は36歳だ。当時は高齢出産とされ、出産に際し、医師からさまざまな注意をされていたという。

「だから、妻は娘に“早く結婚しなさい”と言っていましたが、本心はわかりません。そうするうちに時間は流れ、次女は34歳に。あるとき“最近、疲れやすくてめまいがする”と言い始めたのです。次女は頭が痛いとか、だるいなどの体調不良を抱えていたので、市販薬でやり過ごしていたのですが、あるとき自ら“病院に行く”と言ってきたので嫌な予感をしたことを覚えています」

次女は病院が嫌いだったので、大きな病気ではないかと思ったという。そして、診察を受けたら、急性白血病が疑われる。医師から「今、紹介状を書きました。大きな病院に行ってください。急を要するのでタクシーを呼んでいます」と言われる。

「次女から“パパ、私、入院になっちゃった”と連絡があった。次女は妻に言うと取り乱すだろうから、まずは私に連絡をしてきたのでしょう。妻には何も言わず、私だけが病院に向かいました」

そのときに、医師から急性白血病に間違いがないと言われる。当人である次女と一緒に説明を受けたのだった。

国立がんセンターの白血病の最新のデータを見ると、2019年に白血病だと診断された数は1万4318例あり、うち男性が約60%(8396例)、女性が約40%(5922例)だった。

5年相対生存率(2009~2011年)は44 %だ。女性に多い乳がんの同データが92.3%(女性のみ)、胃がんが66.6 %、大腸がんが71.4 %であることを考えても、生存率が低いことがわかる。

「この病気の進行は早く、放置すると1〜2か月程度で命を落とす。次女の場合、進行があまりにも早く、抗がん剤の治療に入るが、2年相対生存率は30%しかないと告げられました。寛解療法を行なってがん細胞を消す治療をしてから、地固め療法に入ると言われたのですが、なんのことだかさっぱりわかりませんでした」

義親さんが驚いたのは、冷酷な生存率を、次女とともに聞いたこと。

「今は、患者は現状を知るんだな……と思いました。私の父は50歳で他界したのですが、最後まで癌だとは知らなかったはずです。娘の白血病について、妻には何も言えず、病院から出た後も街をさまよっていました。誰かに言いたくて、人が恋しくて、意味もなく銭湯にいったことを覚えています。幸せそうな顔で湯船につかる男たちを見ていて、なぜか涙が止まらなかった」

それから長女の家に行く。小学生の孫たちが「おじいちゃんだ〜」と駆け寄ってきたときに、その場で泣き崩れてしまった。

「膝から力が抜けたんです。長女が“あの子、入院したんだって? お母さんから聞いた”と言ったので、長女と婿さんに急性白血病のことを伝えた。すると、長女はすぐに“私、ドナーになるよ”と申し出た。きょうだいは白血球の型が合うことが多いと知っていたんですね。立派な大人に育ったんだと思って、そこでまた泣きました」

【遺品を「ひとつずつ手にとって」一緒に片付けた……次のページに続きます】

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