親は何も言ってこなかった

彼は助かったものの、肝臓に障害が残った影響から普通に働くことはできなくなった。人づてにそのことを聞くだけで、別れてから彼には一度も会えてはいないという。

「共通の友人が入院中の彼に会いに行っても拒否されているとのことで、私は会いに行けませんでした。その後、あんなに嫌っていたご両親と暮らすために地元に戻ったそうです」

律子さんには、彼に対する恐怖、懺悔、そして彼を心配する気持ちと責める気持ちが残っており、彼のことを忘れられずに一時は睡眠薬を処方されるほどメンタルは落ち込んでしまったという。そんなグチャグチャだった気持ちを落ち着けることができたのは母親のおかげだったと振り返る。

「同棲を解消した後、実家で暮らすのは少しの間にするつもりでした。でも、あんなことがあって、気持ちが落ち着かなくなり、何かを自ら計画して行動することができなくなったんです。仕事など周囲から指示されることしかできなくなりました。そんな私の姿を見ても、母親は何も言わずにそばにいてくれたんです。何かをアドバイスすることもなく、私の話をただ聞いてくれるだけ。それが心地よかったんです」

律子さんは気持ちが落ち着いた後に一人暮らしを始めるが、あれ以降恋愛はしていないという。

「元彼の前からあまり恋愛にいいイメージがなかったので、新しい恋愛をする気になれず、結婚もしたい気持ちになりませんでした。その気持ちを正直に親に伝えたところ、受け入れてくれました。生きてきた中で、今が一番楽だと感じています」

親子関係は、放任と過干渉のどちらかに傾き過ぎてしまうと、子どもが大人になったときに関係がうまくいかなくなることが多い。親はいつまでも子どものことを自分のものだと思ってしまうところがあるが、律子さんの親はいつでも子どもの主体性を尊重していた。子ども自身の回復力を信じたからこそ、律子さんは今が一番幸せと思えることができているのだろう。

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

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