人手不足の昨今、ハローワークのほか、ネットや雑誌などでも求人情報はあふれています。転職のハードルが低くなった今、会社を辞めることはごく普通のことになりました。退職の理由は様々です。転職や学び直しなどの自己都合で辞める人ばかりではありません。会社の業績不振による解雇などで退職を余儀なくされる人もいます。

また、病気や出産・育児などで仕事を続けるのが難しくなって退職する人もいます。今回は、離職理由による失業給付の違いを中心に、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
失業手当の受給期間は、自己都合と会社都合で異なる?
受給期間は延長できる?
失業保険は何回もらえる?
まとめ

失業手当の受給期間は、自己都合と会社都合で異なる?

失業手当の受給期間は、退職した理由と被保険者であった期間によって異なります。失業手当をもらうためには、ハローワークに離職票を提出して求職の申し込みをしなければなりません。受給が決定すると、受給資格者は離職理由によって、「障害者等の就職困難者」「特定受給資格者」「特定理由資格者」と、それ以外の受給者に分けられることになります。この「特定受給資格者」「特定理由資格者」とは、どういう人をさすのでしょうか?

「特定受給資格者」は、会社の都合により、時間的余裕がなく離職に追い込まれた人などが該当します。会社の倒産、会社都合の解雇だけでなく、3年以上引き続き雇用契約を更新して働いていたのに、更新されなかった場合なども含まれます。また、会社の法令違反、賃金の未払いや過度の時間外勤務、上司・同僚からのハラスメントで退職した人なども該当することがあります。そのほかにも細かい基準がありますが、特定受給資格であるかどうかはハローワークが判断します。

「特定理由資格者」は3年未満の労働契約の満了や定年、正当な理由のある自己都合退職した人が該当します。正当な理由の退職というのは、病気や視力・聴力などの減退、妊娠・出産、家族の介護、配偶者の転勤などでやむを得ず退職する場合を指します。これもまた該当する例は多数ありますので、ハローワークに判断をゆだねることになります。

いわゆる会社都合の離職者が含まれる特定受給資格者は、失業手当の給付内容が手厚くなっています。給付日数は離職時の年齢や被保険者期間によって細かく決まっており、45歳以上60歳未満の離職の場合、被保険者期間が10年以上20年未満で270日、20年以上の場合は330日になります。

これに対して一般の自己都合退職者は、65歳未満であれば年齢による差異はなく、所定の給付日数は10年以上の被保険者期間で120日、20年以上でも150日です。さらに、特定受給資格者の場合はハローワークで求職の申し込みをすると、7日間の待期が経過すればすぐに支給開始となりますが、自己都合退職者の場合は、待期後に2か月から3か月の給付制限期間が設けられています。

特定理由資格者の場合は、支給日数は一部の人を除いて自己都合退職者と同じですが、7日の待期後の給付制限はありません。雇用保険の給付は、やむなく失業した人を優先しますので、自己都合の退職の人のほうが条件が厳しいことは、あらかじめ認識しておきましょう。

受給期間は延長できる?

失業手当が受給できる期間は決まっています。所定給付日数は人それぞれですが、受給できる期間は原則として、離職の日の翌日から1年間となっています。ただし、障害者等の就職困難者や特定受給資格者には給付日数が300日を超える人がいるため、就職困難者で給付日数が360日の場合は60日、特定受給資格者で給付日数が330日の場合は30日を1年に加算した日数が受給期間となります。

しかし、このような例は少数ですので、一般的には受給期間は1年間と覚えておくべきです。したがって、離職の日の翌日から1年経過してしまうと、給付日数が残っていても原則的には支給されません。そのため、ハローワークでの手続きはなるべく早めに行なうよう注意が必要です。なかには、1年以内に失業手当を受給することが難しいという人もいます。病気やけが、妊娠・出産などで離職した場合などは、すぐには働くことができません。このような場合はどうなるのでしょうか?

特別な事情がある場合、受給期間を延長することができます。本人の傷病、妊娠・出産、家族の介護など、求職活動ができない理由があるときは、受給期間は本来の受給期間に働くことのできない期間(最長3年間)を加算することができます。また、60歳以上で定年退職した人などは、しばらく休養してから職を探したいという人もいるでしょう。この場合も、ハローワークで手続きすることにより、本来の1年間に加えて最長1年間受給期間を延長することが可能です。

失業保険は何回もらえる?

失業手当を受給した後に就職しても、そこで長く働くとは限りません。再び退職して転職する人も少なからずいます。このような場合、失業手当は何回までもらえるのでしょうか? 結論を言うと何回でも受給できます。失業手当の受給に回数の制限はありません。とはいっても、短期間に何回ももらうことは、現実的には困難です。受給資格要件を満たさなければならないからです。

失業手当を受給するとそれまでの被保険者期間はリセットされます。次に失業手当を受給するためには、原則として2年間で12ヶ月以上の被保険者期間がなければなりません。また、転職などの自己都合による退職の場合は、すぐにハローワークで手続きしても、7日間の待期経過後、通常2か月の給付制限があります。5年間で3回以上離職した場合、3回目以降は給付制限が3か月となります。

しかしながら、受給資格要件さえ満たせば、何度でも失業手当を受給することは可能です。ただし、失業が認定されるのは、「いつでも就職できる状態にあり、積極的に求職活動を行なっていること」が基本ですので、その点はしっかり肝に命じておきましょう。

まとめ

雇用保険の求職者給付はいわゆる失業手当と呼ばれますが、離職理由によって支給日数は異なるものの、申請する回数の制限はありません。失業手当は、失業した人の求職活動をサポートする制度です。新しい就職先を探すときには、制度の内容を理解して適正に利用しましょう。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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