雇用保険とは労働者が失業したとき、あるいは雇用の継続が困難になったときに必要な給付を行なう制度です。在職中にもらえる給付もありますが、やはり多くの人が気になるのは会社を退職したあとの失業手当でしょう。かつては終身雇用が一般的とされていた時代もありましたが、今は転職市場が活況です。就職した会社を辞めることはよくあることになりました。
会社を辞める時の手続きや失業手当がいつからもらえるかということは、現段階で退職を考えていない人にとっても気になることだと思います。今回は、退職時の手続きについて、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。
目次
退職してから失業手当はいつからもらえる?
退職時の手続き
自己都合で辞めてからすぐにもらえる?
まとめ
退職してから失業手当はいつからもらえる?
雇用保険の求職者給付のうち、高齢者・短期・日雇労働者を除いた一般の求職者に対する給付が、いわゆる失業手当と呼ばれているものです。退職後の当面の生活のためには、いつから失業手当をもらえるかということは、当事者にとっては切実な問題です。
しかしながら、失業手当は会社を退職すれば誰でももらえるわけではありません。給付を受けるためには、「就職の意思があり、すぐに働けること」と「原則として離職前の2年間に被保険者期間が12か月以上あること」の二つが条件になっています。つまり、次の就職が決まっている人や、家事や学業に専念する予定の人はもらえないということです。ハローワークで失業手当受給の申し込みをする際は、求職活動をすることが前提ですので、その点は意識しておくようにしましょう。
求職の申し込みをしてからは、7日間の待期期間があります。この間は失業していることが条件です。待期期間経過後に失業手当の支給が開始されますが、退職理由によって、さらに2か月間または3か月間の給付制限がある場合もあります。これについては後ほど解説します。手当の受給が決定した後は、原則として4週間に1度ハローワークで失業の認定を行ない、失業手当が支給されます。
退職時の手続き
失業手当をもらうためには、会社の退職時にいくつか気をつけるべき点があります。まずは退職の申出をいつするのかということから見ていきましょう。法律上は、労働契約は解約を申し出てから2週間で終了しますが、それぞれの会社の就業規則で申し出る時期は決められていると思います。
手続を円滑に進めてもらうためにも、会社のルールに従って退職を申し出ましょう。上司には退職の意思を早めに伝え、引き継ぎなどもしておくとトラブルなく次のステップに進めると思います。退職時には健康保険証の返納などとともに、雇用保険の資格喪失の手続きをします。失業手当を受給するためには離職票が必要ですので、離職票交付の希望は必ず伝えましょう。
退職願などを会社に提出するときに注意しなければならないのは、退職日です。失業手当を受給するためには、2年間に通算して12か月の被保険者期間が必要です。まるまる1か月在籍していなくても、賃金支払いの基礎となった日数が11日以上、または労働時間が80時間以上の月は1か月としてカウントされます。退職日までの被保険者期間が、その条件をクリアしているかどうか、きちんと確認しておきましょう。
また、65歳以上で退職すると通常の失業手当は受けられず、高年齢求職者給付金という別の給付の対象者になります。離職日が65歳の誕生日より前か後かということも注意すべき点です。さらに、失業手当は在籍していた期間や退職時の年齢、退職理由によって支給される日数が異なりますので、その点も知っておくといいでしょう。退職後に離職票を受け取ったら、管轄のハローワークに行って求職の申込をしますが、申し込みにはマイナンバーの提示が必要になります。
マイナンバーカードを持っていない場合は、運転免許証など、個人が確認できる書類を持って行かなければなりません。手続の詳細は、ハローワークのパンフレットの他、ネットなどでも公開されていますから、目を通しておきましょう。受給資格の確認・決定後は、ハローワークから失業手当の1日あたりの金額、受給できる日数が提示されます。その後はハローワークのスケジュールに従って失業の認定、手当の支給が行なわれることになります。
自己都合で辞めた場合、すぐにもらえる?
退職日に加えて、もう一つ注意しなければならないのは退職理由です。失業手当がいつからもらえるのかということは、退職理由が大きくかかわってきます。退職理由が解雇や定年、契約期間満了などの場合は、7日間の待機期間が終わると失業手当の支給が開始されますが、退職理由が自己都合や懲戒解雇であった場合は、待期期間経過後に給付制限が設けられています。
つまり、自己都合で退職した場合は、申し込んでから7日間経過してもすぐには失業手当がもらえないということです。給付制限の期間は通常2か月ですが、5年間に3回以上離職手続きをすると、3回目以降は給付制限期間が3か月となりますので、注意が必要です。
退職理由が影響するのは、給付制限の有無だけではありません。会社都合の解雇などで辞めた人は「特定受給資格者」と呼ばれますが、特定受給資格者はそれ以外の人に比べて失業手当の支給日数が多くなっています。ちなみに自己都合退職の人は、障害者などを除いて支給日数の上限は150日ですが、特定受給資格者は、最長の場合330日になります。
さらに、失業保険を受給するために必要な被保険者期間も1年間に6か月以上と短縮されます。特定受給資格者は、会社都合で解雇された人だけを指しているのではなく、賃金の未払いや過度の残業、ハラスメントなどが理由で退職した人も該当者と認定されることもあります。退職理由は離職票に記載されていますから、しっかりと確認しましょう。
まとめ
雇用保険の失業手当は、会社を退職して求職活動をする人を経済的にサポートする制度です。解雇などで離職を余儀なくされた人には手厚い反面、不正受給などには厳しく、様々な制限も設けられています。本記事では、失業手当はいつからもらえるかということを中心に解説しましたが、失業手当の受給には他にも多くの注意点があります。退職を考えている場合は、手続の流れや支給日数の違いなどを前もって確認しておくと良いでしょう。
●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)
社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com