会社などで働いている人の多くは、社会保険および雇用保険に加入していると思います。給与明細を見ると、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料が控除されているでしょう。
40歳以上の人は介護保険の負担もありますが、40歳以上65歳未満の人は健康保険に上乗せする形で保険料が徴収されています。広い意味では、これらすべてを総称して社会保険と呼ぶこともあります。
ただし、通常では健康保険・厚生年金保険、介護保険の三つを「社会保険」、雇用保険は労災保険(労働者災害補償保険)とともに「労働保険」として区別して扱われています。では、社会保険と雇用保険ではどのような違いがあるのでしょうか? 今回はその違いについて、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。
目次
社会保険とは?
雇用保険と社会保険、何が違う?
雇用保険だけ加入することはできる?
まとめ
社会保険とは?
まずは、社会保険の仕組みについて見ていくことにしましょう。日本は国民皆保険制度をとっていますから、全国民が何らかの医療保険制度に加入することになっています。
この制度により、会社員や公務員のように組織に雇用されている人は、全国健康保険協会や健康保険組合が運営している健康保険に、それ以外の自営業者などは国が運営する国民健康保険に加入しています。
年金もまた国民皆年金制度により加入が義務付けられているので、会社員・公務員などは厚生年金に、そのほかの人は国民年金に加入しています。これらの制度のうち、組織に雇用されている人が加入している健康保険・厚生年金・介護保険を社会保険と呼んでいます。
ちなみに、厚生年金は国民年金に上乗せされる年金制度ですので、厚生年金の被保険者は国民年金にも加入していることになっています。
雇用保険は政府が管掌する制度で、労働者が失業した時、雇用の継続が困難になった時に必要な給付をする制度です。法人はすべて強制適用となりますから、事業を開始したら、会社はハローワークなどで適用事業所の届出をしなければなりません。
また、労災保険は加入者の負担はありませんが、一人でも従業員を雇用している会社は適用事業所となります。この雇用保険・労災保険は労働保険と呼ばれ、社会保険とは区別しているのが一般的です。
雇用保険と社会保険、何が違う?
社会保険は、国民皆保険・皆年金制度に基づいていますから、会社が適用事業所であれば、経営者や役員であっても加入義務があり、被保険者となります。正社員ばかりでなく、パート・アルバイトの人でも一定の条件にあてはまれば加入することになります。
その条件とは、
・ 週20時間以上働いていること
・ 賃金(残業代・賞与などを除く)が月88,000円以上であること
・ 2か月以上雇用される見込みであること
・ 学生でないこと(休学中・夜間学生などは加入対象)
この4つになります。
月額88,000円というのは、年額だとおよそ106万円ですが、これは現段階では従業員101人以上の会社が適用になっています。100人以下の会社だと年130万円が壁となります。いわゆる「年収の壁」というものです。
また、被保険者の親族などで年収の壁以下の収入の人は、健康保険の被扶養者として加入することができます。被扶養者には保険料の支払義務はありません。さらに、被保険者の配偶者は収入が一定以下であれば、「国民年金の第3号被保険者」となって、保険料が免除される制度もあります。
これに対して、雇用保険には被扶養者という考え方はありません。働いている本人のみが被保険者となります。加入条件も収入の制限はなく、週20時間以上働いていることと31日を超えて雇用される見込みがあることが条件です。
ただし、会社の代表者や役員、学生などは加入することはできません。なぜならば、雇用保険は雇用されている人の生活の安定と福祉のための制度だからです。その観点から、休学中の者や夜間学生、役員であっても労働者的性格の強い人は加入できる場合もあります。該当すると思われる人はハローワークなどで確認が必要です。
雇用保険だけ加入することはできる?
社会保険と雇用保険は加入条件の違いがありますから、雇用保険だけ加入することは可能です。むしろパート(タイム)労働者の場合、雇用保険だけしか加入していない人が多いと言えます。これはなぜかというと、やはり保険料の負担の違いが大きいことによるものでしょう。
雇用保険率は、一般の事業の場合本人の負担は0.6%ですから、月額88,000円で計算すると528円になります。それに比べて社会保険に加入した場合は、健康保険・厚生年金の自己負担分(介護保険を除く)は、12,000円を超えます。
この金額は国民年金の保険料よりは安いものの、かなり重い負担といえますね。配偶者が被保険者だった場合、被扶養者になれば保険料の負担はないのですから、社会保険に加入せずに働きたい人が多いのも無理からぬことです。会社にとっても、加入者とほぼ同額の会社負担分が生じますから、社会保険に加入させたくないという経営者も少なからずいるでしょう。
そこで多くのパート労働者は、「年収の壁」を超えないように労働時間を調整して働き、雇用保険のみ加入しているのが現状です。しかしながら、人手不足の今、「年収の壁」は問題視されつつあります。保険料の負担がないことが公平性を欠くという指摘や、女性の活躍のためにはマイナスだという声もあります。
社会保険の適用は拡大する方向にあり、現在101人以上の企業に適用されている加入条件は、令和6年10月より51人以上の会社が対象となります。雇用保険のみ加入するのは、将来的には難しくなるかもしれません。
まとめ
雇用保険も社会保険も、国民の生活の安定や雇用の確保・維持などに重要な役割を果たしています。働く主婦や高齢者の増加などにより、これらの保険の適用の対象は拡大していく傾向にあります。社会保険に加入することはマイナス面ばかりではありません。保険料の負担は増えますが、自らの老後の年金を増やすことにつながります。
加入をためらっている人は、今後は社会保険、雇用保険それぞれのメリットを考えて、働き方を考えていく必要があるでしょう。
●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)
社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com