転職がごく普通のことになった今の時代、どこの会社でも、辞めることを考えている人は一定数いると思います。すでに次の就職先を決めてから退職する人はともかく、辞めてからじっくり求職活動をしようと思っている人にとっては、退職後の生活費は重大な問題です。雇用保険の失業手当は、求職中の人を経済的にサポートする役割を担っています。しかしながら、失業手当は会社を辞めれば誰でももらえるものではありません。

いつから、いくらぐらいもらえるのかということも気になるところです。今回は、離職理由による失業手当の違いを中心に人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
失業保険はいつからもらえる?
自己都合退職と会社都合退職ではもらえる額は変わる?
【会社都合の場合】の条件
まとめ

失業保険はいつからもらえる?

会社を退職した後、失業手当はいつからもらえるのでしょうか? まずその前に、失業手当の受給資格があるかどうかの確認が必要です。失業手当をもらうためには、「就職の意思があり、すぐに働けること」と「原則として離職の日以前の2年間に、被保険者期間が通算して12か月以上あること」の2つが条件になっています。失業手当を受給しながら、求職活動したい人は、退職時には必ず離職票を希望してください。

離職票の交付を受けたら、記載されている「被保険者算定対象期間」が12か月あるかどうか確認しましょう。仮に1か月在籍していない月があっても、賃金支払い日数が11日以上ある、またはそれ以下でも月に80時間以上働いていれば1か月としてカウントされます。離職票を提出してハローワークで失業手当の手続きをすると、そこで受給資格が決定されます。受給資格は、離職票の離職理由の欄に記載された内容により変わってきます。

失業保険の支給開始については、まず求職の申し込みをしてから7日間の失業している日が必要です。この7日間は一般に待期と呼ばれています。待期期間経過後、解雇・定年・契約期間満了で離職した人は支給が開始されます。離職理由が自己都合、懲戒理由である場合は、待期期間の後に2か月または3か月の給付制限が設けられます。自己都合で退職した人の給付制限は原則2か月ですが、5年間のうち3回以上退職した人は3か月となりますので注意が必要です。

自己都合退職と会社都合退職ではもらえる額は変わる?

離職理由により、失業手当の支給開始時期が異なるだけでなく、支給される額も変わります。これはどういうことなのか、まず失業手当の計算の仕方から見ていきましょう。失業手当は、本人の年齢および在職中の賃金により1日あたりの支給額が算出され、離職理由、年齢、被保険者期間により支給される日数が決定する仕組みになっています。

1日当たりの支給額は、離職の日以前の6か月の賃金を180で割った賃金日額に、年齢、日額に応じて45%から80%の率を乗じて算出されます。この給付率は賃金日額が高い人ほど低くなっています。支給日数は離職理由が大きく影響します。倒産・解雇など会社都合で離職した人は、自己都合などで辞めた人に比べて支給日数が多くなっているのです。

どれくらい違うのかというと、自己都合の退職の場合は障害者などを除いて、支給日数の上限は150日です。一方、解雇など会社の都合で離職した人は「特定受給資格者」と呼ばれており、支給日数は年齢や被保険者であった期間によって細かく決められています。最長は330日で、これは45歳以上60歳未満で、被保険者期間が20年以上の人が相当します。

会社の都合で離職を余儀なくされた人は、再就職の準備をする時間的余裕もなく、生活に窮する人も少なくありません。雇用保険の主旨からすれば、そのような人を自己都合の人より優遇するのは無理からぬことと言えるでしょう。特定受給資格者は、失業保険受給に必要な被保険者期間も離職以前1年間に6か月に短縮されています。

手続きの詳細や支給日数の一覧などは、ハローワークのパンフレットやネットで確認をすることができます。退職を考えている人は見ておくと良いでしょう。

【会社都合退職の場合】の条件

会社の都合などで離職した人は特定受給者と認定され、支給日数が多いことは前項で説明しました。ただ、会社都合と言っても、様々なケースが存在します。具体的に、どのような人が特定受給資格者に該当するのでしょうか? 会社の倒産や事業所の廃止、事業所の遠方移転によって離職した人は、当然特定受給資格者と認められます。会社の経営難による解雇や退職勧奨による離職も同様です。

しかしながら、特定受給資格者と判断されるのは、このような明らかな会社都合の退職者ばかりでありません。賃金の未払いや大幅な減額があったり、時間外・休日労働が1か月100時間以上、あるいは2か月以上連続して80時間以上などの過重な労働が原因で辞めた人も該当します。また、労働契約が更新されずに辞めた人も該当する場合があります。

3年以上引き続き雇用されていたのに雇用契約が更新されなかった場合や、更新されることが明示されたのに実際には更新されなかった、というケースなどが当てはまります。さらには、妊娠・出産、家族の介護などを行なう上で不利益な扱いを受けたり、パワハラが原因で退職に追い込まれたケースなども、特定受給資格者に該当することがあるのです。

これらの実際の判断は、ハローワークの担当者が会社側と離職者の双方が主張する離職理由を把握し、事実が確認できる資料などに基づいて行ないます。該当するケースはまだ他にもありますので、判断の基準などについてはハローワークに問い合わせると良いでしょう。

まとめ

会社を退職する理由は人それぞれです。転職などで辞める人もいれば、会社の事情で不本意ながら辞める人も少なくありません。しかしながら、いざ退職するとなると、それが多すぎる残業や職場のハラスメントなどが退職の原因であっても、会社ともめることをおそれて、自己都合の退職にしてしまうケースが数多く見られます。

失業手当の受給開始やもらえる日数は自己都合と会社都合で大きく異なります。その点を踏まえた上で、退職時に主張すべきことはしっかりと伝えることが大切です。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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