「お金がないから、大学には行かせられない」
弓絵さんは、25歳から45歳の20年間、働き続けていたという。子育てをした記憶もなく、常に生活に追われていた。
「娘、娘、息子とおり、とにかく下の息子の高校を出して、楽になりたい一心でした。私の死んだ母が“高校だけは出ておきなさい”と言っていたので」
大学は無理だと思っていた。だから、子供達に「お金がないから大学には行かせられないよ」と口癖のように言っていた。
「あとは“高校を出たら、一人暮らしをしろ”、住み込みでもいいから働けと。お姉ちゃんは夜の仕事、妹は飲食店、下の息子は自動車の整備士になりました。下の息子が出ていってからホッとした。やっと私の人生になったと。3年くらいは平穏無事だったのですが、あるとき、一番上の娘が子供2人連れて帰ってきたんです」
弓絵さんにとっての孫だが、少しも可愛いと思えなかったという。
「当時、娘は24歳で、孫は2歳と3歳の年子の兄弟でした。聞けば娘は離婚して、男に子供を押し付けられたって。親子で同じようなことをしているんですよ。娘はどうにもならないから助けて欲しいと言い、さすがに追い出せないのでしばらく面倒を見て、近くにアパートを借りてやり、孫たちを保育園にも入れたんです」
とはいえ、娘は遊びたい盛りだ。孫を弓絵さんに預けて出かけてしまう。しつけに厳しい弓絵さんは、孫とはいえ容赦しなかった。
「“ばあば、嫌い”となれば、来なくなるかと思ったんですが、連れてくる。孫が小学生時代の夏休みなんて、ウチに置いていっちゃうんですよ。孫たちはびっくりするくらい勉強ができなくて、掛け算や漢字などを引っ叩きながら覚えさせました」
それから、娘は別の男性と同棲するようになり、やがて孫たちは来なくなった。再び平和な数年間を過ごしていたが、ある夜、警察から電話がかかってきたという。
「中学生の孫が万引きをしたと。親と連絡が取れないので、私に連絡をしてきたんです。慌てて東京のショッピングセンターに行ったら、髪の毛の一部を金髪にした孫が、不貞腐れた顔で座っていました」
荒んだ生活がわかるジャージ姿、かなり痩せている体型と不健康な顔色、手の甲には簡易的な刺青がされており、耳にピアスが光っていた。
「わかりやすい不良になっていて、言葉も出なかった。盗んだものを聞くと、パンとおにぎりだという。店の人も“お腹が空いて盗んでいることは知っていて、何度も口頭で注意していたのですが、今回は警察に通報しました”と申し訳なさそうに言うんです」
孫が万引きで通報されたのは、親への見せしめだった。しかし、肝心の親は引き取りに来ず、その役割は弓絵さんに回ってきた。
【悪の道に入ってしまうと、まともな道に戻れないのか……後編に続きます】
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などに寄稿している。