取材・文/沢木文

親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。

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父と同じ大学に合格したことが人生の最高潮

悟志さん(70歳・会社員)は、45歳のひとり息子が転職を繰り返し、独身のまま家にいることを憂いている。

問題なのは、本人に危機意識が全くないことだ。「俺の価値がわからないなんて、会社が悪い」と、10社以上を転々としている。先日、やっとのことで入ったベンチャー企業から「経歴詐称も甚だしい」と2か月でクビになったそうだ。まずは、息子のこれまでのキャリアについて聞いた。

「私と同じ偏差値69の私立大学を出ている。世界に誇る一流大学ですよ。本当は付属に入れたかったのだけど、大手で給料がいいとはいえお金には限界がある。高校まで公立に行ってもらい、現役で合格した瞬間の喜びが、私の人生の最高潮だったかもしれません」

幼いころから成績がよく、スポーツもできた息子は、悟志さんと妻(71歳)の自慢だった。

「どこに行っても褒められる。中学では野球部のキャプテン、名門公立進学高校では生徒会長を務めました。指定校推薦でMARCH(大学群の略で明治、青山学院、立教、中央、法政)の一つが取れたのですが、“俺はそんな逃げはしない”と、一般入試で受けて合格したんです」

大学時代はそれまでの人生に比べてパッとしなかったようだ。それまでは、「人より成績が優れている」ということで、人を従えることができたが、大学に入ったらそうはいかない。他者に寛容であり、差別をしない人、もしくは他人に“あの人は聡明でフラットだ”と思わせることができる人が、覇権を握る。

「息子は勉強に打ち込み、なかなか優秀な成績をマーク。教授や先輩の覚えもよく、メガバンクに就職。これで、息子の人生も安泰だと思いました。息子から会社名の入った封筒をもらって、親戚に送る手紙にその銀行の封筒を使ったものです。あれも誇らしかったな」

【海外支店に配属されなかったことで、出世の道は絶たれたと思い込む……次のページに続きます】

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