部下を指導する立場であったなら、時として部下を叱ることは必要なことでしょう。叱るという行為は、相手の間違いを改めさせ、成長を促すという意義があります。ですから、決して悪いことではありません。

しかしながら、叱り方によっては、ハラスメントにつながることもあります。怒りにまかせて、感情的な言動をとるようなことはありませんか? 叱ることによって相手が萎縮し、人間関係が悪化してしまったら、適切な指導とは言えません。

今回は、パワハラにならない叱り方について、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説いたします。

目次
パワハラにならない叱り方とは?
パワハラに当たらない事例とは?
まとめ

パワハラにならない叱り方とは?

叱ることがパワハラにならないためには、どうしたらいいでしょうか? 叱る時には、叱る側の意思を伝えるだけでなく、相手の話を聞くことも大切です。大勢の人の前では、相手は周囲を気にしてしまい、話に集中できません。

時と場合にもよりますが、叱る時は相手と一対一で落ち着いて話ができる環境を選びましょう。厚生労働省の指針では、パワハラに当たらない正しい叱り方として、次のようなポイントを挙げています。

1.具体的な行動や内容に焦点を絞る。
2.感情的にならない。
3.人格や性格を否定しない。
4.どのように改善すべきか伝える。
5.部下にどのように伝わったか確認する。

叱る内容について具体的に伝えることは、極めて重要です。「もっとちゃんとしろ」とか、「しっかりやれ」という曖昧で抽象的な表現では、相手は何がいけないのか正しく理解できません。だらだらと長く話しすぎることも、本当に伝えたいポイントがずれてしまいます。相手が理解できるように、指摘すべきことは具体的に、手短かに話しましょう。

感情的にならないように、冷静に相手と向き合うことも意識しなければなりません。暴力をふるうのはもってのほかですが、大声で怒鳴る、机をたたくなどの威嚇行為や、長時間立たせて叱るなど相手に苦痛を感じさせる行為は、パワハラとなる可能性が高いです。

また、「お前は社会人失格だ」「君は仕事ができない」など、相手の人格や能力を否定するような発言は、相手の自尊心を傷つけてしまい、パワハラと受け取られてしまいます。部下を指導する時は、一方的に自分の言いたいことを言うだけでは意味がないのです。

相手の話を聞き、何が問題だったのか、どのように改善すべきかを丁寧に伝えましょう。伝えたい内容を相手が理解したかどうか確認し、その後のフォローを行うことが大切です。改善が見られたときは、きちんと評価し、相手のモチベーションを上げることも忘れてはなりません。

パワハラに当たらない事例とは?

適正な指導であれば、叱ることはパワハラには当たりません。指導が適正であるかどうかは、「業務上必要性があるか」「伝え方が適切であったか」がポイントになります。

必要なことを正しく伝えるためには、言葉の使い方にも注意しましょう。何がパワハラになるかを考える上で、不適切となるNGワードの例を紹介いたします。

・「君は○○大学出身だったな。あそこの大学の人間は、頭は良くても融通がきかなくて使えないな」
・「あなたは性格的に、この仕事に向いてないんじゃないの? センスがないと無理なんだ」
・「やっぱりB型のやつは、マイペースで困るよ」
・「女性なのに前に出過ぎると、生意気だと思われるよ」
・「以前の仕事でも僕がフォローしたんだよ。だいだい、あの仕事は君のミスだったんだ」
・「前の担当者は気配り上手だったが、君はだめだね」

これらの言葉をどう思われるしょうか?

ここに挙げたように、出身・経歴をあげつらって批判したり、性格やセンスの問題などを持ち出すのは不適切な叱り方です。性別や血液型で決めつけるようなことも同様です。このようなことは変えられない、改善しようがないことなので、相手は自分が否定されているような気持ちになり、モチベーションを失ってしまいます。

叱る時は、問題となっている行動や間違いについて具体的に指摘することが重要です。また、過去のミスの話を蒸し返したり、他人と比べることも好ましくありません。相手は不快に感じるだけでなく、問題の焦点がぼけてしまい、叱られている内容が曖昧になってしまいます。

それから、NGワードに挙げませんでしたが、「なぜ」「どうして」と繰り返し質問し、正論を振りかざして理詰めで追い詰めていくやり方は避けるべきです。相手は逃げ場をなくしてしまい、その場限りの謝罪や言い訳をしてしまうことになりかねません。

一方で、人前で叱ったり、厳しく注意してもパワハラにならない場合もあります。次のような事例はパワハラには当たりません。

事例1

作業現場で、決められたルールを守らず、危険な場所でスマホを見ていた社員をその場で強く叱った。叱った後は現場の危険性を教え、安全のためのルールを守ることを徹底させた。

事例2

何度注意しても作業の納期を守らない社員に、少し厳しく注意した。なぜ納期を守らないといけないのか、仕事に対する責任について説明した上で、チームとしてどうしたら納期に間に合うか、みんなで話し合って作業を割り振った。

事例1のように、事故の危険を回避するためにその場で注意することは当然のことです。このような場合は人前であっても、声が大きくなってもやむをえません。また、事例2のように、チームのメンバーや関係先に迷惑をかける行為は、チーム全員で情報を共有することも必要です。

サポートするメンバーの不満に配慮することになりますし、本人にとっても、協調性や責任感が身につくことにつながります。

まとめ

叱るということは、相手を否定することではありません。相手を追い詰めて、間違いを認めさせることがゴールではないのです。叱り方がパワハラにならないためには、まずは相手を信頼して向き合いましょう。

叱ることで問題が改善し、本人にとっても、仕事の上でもプラスになるということを理解してもらうことが本来の指導です。お互いに尊重し合える関係を築くためには、日ごろのコミュニケーションが大切なのは言うまでもありません。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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