毎年、年末になると税制改正大綱が公表されます。税制改正大綱とは、各省庁や各種団体からとりまとめ、今後の税制改正の基礎となる案のことです。この案を翌年の2月に審議し、3月に成立、その後4月から施行というのが基本的な流れになります。

減税を期待される方も多いかもしれませんが、個人に対する税金(所得税・相続税等)は年々増加傾向にあり、自身でいかに節税していくかというのが非常に重要になってくるでしょう。

そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た知識や経験に基づき、年金受給者の家族を扶養に入れることによる税金のメリットについてご説明いたします。

目次
そもそも扶養とは?
年金受給者の家族を扶養に入れることは可能?
年金受給者を扶養に入れるメリット・デメリットは?
年金受給者を扶養に入れる手続きは?
まとめ

そもそも扶養とは?

扶養とは、一人で生計を立てることができない家族や親族に対して、その他の親族などが経済的な援助を行なうことです。この扶養には「社会保険上の扶養」と「税制上の扶養」の2種類があります。

社会保険上の扶養

被扶養者(配偶者や子供、親など)の年収が一定以下の場合において、扶養者と同じ社会保険(健康保険・厚生年金)に加入することで、被扶養者は社会保険料を納める必要がなくなるというものです。ただし、2022年10月以降、社会保険の適用拡大により、パートやアルバイトの方でも社会保険の被保険者となりえるため注意が必要です。

税制上の扶養

配偶者や子供、親などの年間の所得金額が一定以下の場合、納税者の所得から一定の金額を控除できる制度になります。子や親であれば扶養控除、配偶者であれば配偶者控除といい、年齢や障害、同居の有無により控除金額が変動し、所得税や住民税が安くなるというものです。今回は「税制上の扶養」について、ご説明します。

年金受給者の家族を扶養に入れることは可能?

扶養には配偶者控除と扶養控除があります。どちらも要件があり、満たせば扶養に入れることは可能です。配偶者控除には配偶者特別控除もありますが、今回は配偶者特別控除に関しては、説明を省略させて頂きます。

配偶者控除

その年の12月31日の現況で、次の4つの要件のすべてに当てはまる人です。

(1)民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません)。

(2)納税者と生計を一にしていること。

(3)年間の合計所得金額が48万円以下であること(年金収入のみの場合で有れば、年齢が65歳未満の方は108万円以下、65歳以上の方は158万円以下)。

(4)青色申告者の事業専従者として、その年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと。

※なお、控除を受ける納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合は、配偶者控除は受けられません。

扶養控除

その年の12月31日の現況で、次の4つの要件のすべてに当てはまる人です。

(1)配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。

(2)納税者と生計を一にしていること。

(3)年間の合計所得金額が48万円以下であること(年金収入のみの場合で有れば、年齢が65歳未満の方は108万円以下、65歳以上の方は158万円以下)。

(4)青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと。

※配偶者控除・扶養控除は年齢や障害、同居の有無によって、控除出来る金額が変動します。

年金受給者を扶養に入れるメリット・デメリットは?

年金受給者を扶養に入れる場合のメリットとデメリットは、下記の通りです。

メリット

配偶者や親を扶養に入れることにより所得税や住民税が安くなります。配偶者であれば配偶者控除が38万円、年齢が70歳以上であれば48万円控除することができ、扶養控除であれば38万円、同居している70歳以上であれば58万円控除することが可能です。例えば、下記条件であることを想定します。

所得税率:10%

住民税率:10%

扶養親族:70歳以上の親

70歳以上の親であれば、58万円を控除することができますので、所得税は5.8万円・住民税も5.8万円の合計で11.6万円を節税することが可能です。

両親の年金が一定の所得金額以下の場合は、夫が妻を扶養に入れるのではなく、子が夫と妻の両方を扶養に入れることにより、合計で116万円を控除することができ、先ほどの倍の23.2万円を節税することが可能になります。

ちなみに、親を扶養に入れる際に同居の有無を問わず、扶養親族の要件において、「納税者と生計を一にしていること」とあります。これは、別居であっても常に生活費等を送金しているのであれば、生計を一にしていることに該当し、扶養控除を受けることが可能です。ただし、別居であれば先程の控除金額は58万円ではなく、48万円となります。

デメリット

一方で、親を扶養に入れると親の収入に子供の収入が加算されるため、医療費や介護費の負担限度額が増えてしまう可能性があります。所得税や住民税の節税効果より医療費や介護費の負担が多い方は扶養に入れるのは辞めておいた方がいいでしょう。

年金受給者を扶養に入れる手続きは?

扶養に入れる手続きには、パターンが3種類あります。

パターン1:日本年金機構からの「扶養親族等申告書」を提出する場合

このパターンは、現時点で年金を貰っている方が対象になり、主に配偶者控除を適用する方が該当します。日本年金機構から送られてくる「扶養親族等申告書」に配偶者の氏名等を記入して、提出しましょう。

パターン2:会社勤めの方で年末調整をされる場合

このパターンは、現時点で給与を貰っている方が対象となりますので、主に扶養控除を適用する方が該当します。年末調整される際に、「給与所得者の扶養控除等申告書」に親の氏名等を記入して、提出しましょう。

パターン3:確定申告をする場合

このパターンは、日本年金機構からの「扶養親族等申告書」、もしくは年末調整の際に「給与所得者の扶養控除等申告書」に記載するのを失念した方が対象です。確定申告をする際に、確定申告書第二表の「配偶者や親族に関する事項」の欄に配偶者や親の氏名等を記入して、所轄の税務署へ提出します。

まとめ

政府は令和5年度税制改正における、「防衛力の抜本的な強化」に必要な財源を捻出するためとして、防衛増税を閣議決定しました。その時期については、景気や賃上げの動向などを踏まえて判断するとして施行時期は、明言されておりません。しかし、毎年の税制改正を鑑みるに、延長されることはあっても減税される可能性は低いと考えます。

いかに個人で意識を高く持ち、節税対策を考えていくかが、今後、重要になってくるのではないかと思います。 

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com

 

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