父親と私、そして夫。2人暮らしから3人暮らしへ
結婚に向けて新居を構えようとしていた時、結婚相手から驚きの提案があります。
「『このまま同居しても構わない』と言われたんです。私も一軒家に父親だけ残していくのは少しだけ気がかりでした。でも、そんな負担を彼にさせるわけにもいかないと思っていたので、彼からその提案をしてくれた時は本当にいい人を選んだと思いましたね。父親に2人で話をしたら、驚いていましたが、『ありがとう』って涙ぐみながら言っていました」
結婚式の前日には、初めて父親と2人きりで飲みに行き、2人だけの時間を過ごしたそう。その時に初めて父親は謝ってきたと言います。
「彼の計らいで、2人きりにしてくれたんです。父親は職場近くのいつも行く馴染みの小料理屋に連れていってくれました。お店に入ると店員が気さくに話しかけてくる姿を見て、父親の居場所に入れてくれた気持ちになりましたね。
そこで、父親は自身の離婚について私に謝ってきました。『自分が努力すればこんなことにはなっていなかった』と。離婚について何が原因になったのかなんて夫婦しかわかりません。子供には知る権利はあるかもしれませんが、私は親の自由だと思っていました。だから謝る必要はないんです。でも、父親は今の2つに分かれてしまった家族を見て、ずっと申し訳ないと思っていたみたいでした。その時には、私が父についたこともあり、姉は母親側に、そして母親は籍こそ入れていないものの別の男性と一緒に住んでいたんですよ。なので、母親・姉と私は疎遠になっていたんです。でも、この現状を悲観なんかしていません。『気にしていない』と言うと父親はホッとしたように笑ってくれました」
夏美さんはその3年後に子供を産み、今も父親と一緒に暮らしています。そして、子供を産んだことで一時は疎遠になっていた母親や姉とも連絡を取るようになり、年末年始には姉夫婦の子供も一緒に新しい我が家である一軒家で過ごしているそうです。「3人の孫に囲まれたデレデレ顔に、寡黙だった父親の面影は一切ないですよ」と夏美さんは笑顔で語ります。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。