取材・文/ふじのあやこ
近いようでどこか遠い、娘と家族との距離感。小さい頃から一緒に過ごす中で、娘たちは親に対してどのような感情を持ち、接していたのか。本連載では娘目線で家族の時間を振り返ってもらい、関係性の変化を探っていきます。
「ずっと母との関係で悩んでいました。一緒にいるのが辛いのに、頼られると断り切れない。その関係は私が結婚しても関係なく続いたのですが……」と語るのは、依乃さん(仮名・38歳)。25歳のときに結婚して、現在は子どもとの3人暮らしをしています。
小学生のときに両親が離婚。母の不機嫌から弟を守るのに必死だった
依乃さんは滋賀県出身で、両親と3歳下に弟のいる4人家族でした。両親は依乃さんが小学2年生のときに離婚。それからは母親との3人暮らしになったと言います。
「小さい頃の父親のことはぼんやりとしか覚えていません。小学生に上がってすぐぐらいから父親はあんまり家に帰って来ていなかった気がします。離婚してからも両親の決め事なのか、父は一度も会いに来てはくれませんでした。子ども心ながらに『捨てられたんだな』って思っていました。
母親のパートのお金だけでは生活は大変でしたが、父が残してくれた家があったので。それに後から父からの養育費と合わせて父方の祖父母からもお金の援助があったみたいです。母は自分の両親とは折り合いが悪かったようで私は一度も会ったことがなかったのですが、離婚後も父方の祖父母は何度も様子を見に来てくれていました。小さい頃は何も違和感がなかったんですが、今考えると父が会いにこないのに祖父母だけ来るって不思議な関係ですよね。それを笑顔で迎え入れていた母親も」
捨てられたという思いはあったものの、父親がいないことを寂しいとはあまり思わず。それにはある理由があったとのこと。
「母親が私ではなく弟に強くあたるようになったんです。私はなんとなく父親がいないことに触れてはいけないと空気を読むことができたんですが、弟は思ったことをすぐ口にしてしまって『お父さんは何で帰って来ないの?』とか、晩ご飯のときには『おいしくないから食べたくない』など言いたい放題……。弟の何気ない一言に対して母親がヒステリーを起こしたように怒る、というのが頻繁に繰り返されていました。私は弟が怒られないように母親のご機嫌をできるだけとっておこうと毎日必死でしたね。それだけ弟のことが大好きだったんです。父がいなくて寂しいとか、母に笑っていてほしいというよりも、弟のことを守りたかった、その一心でした」
【給料の半分を実家に。そのことに違和感はなかった。次ページに続きます】