給与収入がある場合でも老齢年金を受け取ることは可能です。ただし、無条件で満額を受けることができるわけではなく、毎月の収入に一定の上限額が設けられています。その額を超えてしまうと、特別支給の老齢厚生年金または老齢厚生年金の一部または全部が支給停止する場合も。

そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た知識や経験に基づき満額の年金をもらいながら働ける金額についてご説明いたします。

目次
年金をもらいながら働くことは可能?
在職老齢年金制度とは?
働きながら年金を受給する際の注意点とは?
満額の年金をもらいながら働くには?
まとめ

年金をもらいながら働くことは可能?

年金をもらいながら働くことは可能です。ただし、働いたお給料の額に応じ年金の一部または全部が支給停止される場合があります。影響を受ける年金の確認をするためには、まず受給される年金の内容を確認することが重要です。

まとめると下記の通りになります。

老齢基礎年金

老齢基礎年金とは、国民年金や厚生年金保険などに加入して保険料を納めた方が受け取る年金です。加入期間に応じて年金額が計算されます。老齢基礎年金は、保険料納付済期間と保険料免除期間などを合算した受給資格期間が10年以上ある場合に、65歳から受け取ることが可能です。

また、老齢基礎年金に関しては、働いた給料の額に関係なく、掛けた期間に応じて支給される全額を受けることができます。

老齢厚生年金

老齢厚生年金とは事業所に勤め、厚生年金保険に加入していた方が受け取る年金です。給与や賞与の額、加入期間に応じて年金額が計算されます。老齢厚生年金は一定の要件を満たす方は、60歳から65歳までの間に、繰上げて減額された年金を受け取る「繰上げ受給」の制度を利用することが可能です。

60歳以降に在職(厚生年金保険に加入)しながら働く方は、給料と年金の月額合計が48万円以下であれば老齢厚生年金を全額受け取ることが可能です。しかし、その合計額を超えてしまうと、もらえる年金の一部または全額が支給停止となり、これを在職老齢年金制度といいます。

在職老齢年金制度とは?

在職老齢年金制度とは、70歳未満の方が会社に就職し厚生年金保険に加入した場合や、70歳以上の方が厚生年金保険の適用事業所に勤めた場合に、老齢厚生年金の額と給与や賞与の額(総報酬月額相当額)に応じて、もらえる年金の一部または、全額が支給停止になることです。

具体的には、老齢厚生年金を受給されている方が厚生年金保険の被保険者である場合に、受給されている老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額に応じて年金額が一部、もしくは全部が支給停止となる場合があります。

※基本月額… 基礎年金、加給年金額を除いた老齢厚生(退職共済)年金(報酬比例部分)の月額

※総報酬月額相当額… 1年間で受給した、給与賞与の額を月換算します。算式は下記の通りです。

(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷ 12

なお、「標準報酬月額」とは、月ごとに支給される基本給、役付手当、通勤手当、残業手当等の合計額である「報酬月額」を1等級から32等級までの等級に分け、その等級に該当する金額のことです。「標準賞与額」とは、労働の対価として受けるすべてのもののうち、3か月を超える期間ごとに、受けるもの等のことをいいます。

※70歳以上の「標準報酬月額」、「標準賞与額」は、それぞれ「標準報酬月額に相当する額」、「標準賞与額に相当する額」です。

※65歳未満の方の令和4年3月以前の年金については、支給停止の計算方法が異なります。

働きながら年金を受給する際の注意点とは?

前述した通り、基本月額と総報酬月額相当額が一定額を超えると、在職老齢年金の一部支給停止、もしくは全額支給停止となってしまいます。

下記のフローチャートに当てはめて確認してみましょう。

出典:日本年金機構HP 在職老齢年金の計算方法より

内容をまとめますと下記の通りです。

下記の算式で計算した金額が支給停止となります。

・基本月額と総報酬月額相当額との合計が48万円以下の場合… 0円 全額支給 

・基本月額と総報酬月額相当額との合計が48万円を超える場合… 基本月額 -(基本月額+総報酬月額相当額 - 48万円)÷ 2

令和4年4月からは、年金制度の一部改正により60歳以上65歳未満の方の在職老齢年金について、年金の支給が停止される基準が見直され、65歳以上の在職老齢年金と同じ基準(28万円から47万円)に緩和されました。

満額の年金をもらいながら働くには?

老齢年金は基本的に、現行65歳以上から受給されることになります。65歳以上の方が、満額の年金を受け取りながら働くには、先述の通り、給料と年金受給額の合計月額が48万円以下であれば、全額受給が可能です。

一般的には報酬月額の計算対象となる年金部分の報酬比例は平均で月14万円くらいといわれています。そのため、給料との合算額が上限の48万円を超えることは、あまりないかもしれません。

一方、会社の役員や専門職についておられる方で、現役時代とあまり変わらない報酬を受けられる方等で在職老齢年金の制限を受けないようにするためには、報酬部分(給料)の金額を見直すことが必要でしょう。業務委託契約に切りかえるなどして、厚生年金の加入要件から外れるようにしたり、働く時間を減らすなどの検討が必要になります。

まとめ

2021年4月1日に高年齢者雇用安定法が改正施行されたことにより、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、70歳までの定年引上げ等の高年齢者就業確保措置を会社が講ずることが努力義務となりました。この影響により、今後、年金をもらいながら勤務する機会が増えてくると思います。その際に気になることは、給料の額がいくらまでなら年金を満額受給できるのか、という部分ではないでしょうか。

令和4年3月の改正により、支給停止の上限額はアップしました。あまり影響を受ける方はいなくなったかと思いますが、役員等、現役時代と変わらない収入を得ている方は、働き方などの検討をする必要が出てくるかもしれません。今後のライフワークを考えるうえで、在職老齢年金の知識は是非知っていただきたいところです。

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com

 

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