職場のハラスメント防止は、企業の義務として法律で義務づけられています。パワハラ・セクハラなどの行為が起こらないために、会社は研修などの啓発活動を行わなければなりません。ハラスメント被害者のための相談窓口を設置することも、重要な対策とされています。しかしながら、実際にパワハラを受けた時は、会社に相談すべきかどうか悩む人が多いのではないでしょうか?

今回は、ハラスメント被害を相談する側、相談を受ける側の双方の注意点について、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
パワハラの相談窓口は会社内部と外部の機関がある
相談する前に準備したいこと
パワハラを相談したあとはどうなる?
最後に

パワハラの相談窓口は会社内部と外部の機関がある

パワハラなどの相談窓口は、社内などの内部窓口と外部の窓口があります。それぞれの特徴を詳しく見ていくことにしましょう。

社内の相談窓口

ハラスメント防止策の強化にともない、会社の人事部、労働組合などでパワハラの相談窓口を設置しているところが増えています。社内の窓口は、会社の事情を理解しているので話が通じやすい、迅速に対応してもらえるという点がメリットです。

しかし、社内であるということはデメリットもあります。相談者の中には、パワハラの被害を他の社員に知られたくない人もいます。いくらプライバシーは保護されると説明されても、社内の窓口だと加害者側に情報が伝わるかもしれないという懸念をぬぐいきれません。窓口の担当者は、相談者の不安に配慮して対応する必要があります。

それでも、このような社内の窓口が設置されている場合は、まだ恵まれた環境だといえるでしょう。大きな組織に属していない場合はどこに相談していいかわからず、一人で悩むケースも少なくありません。例えば、アルバイトなどの不安定な雇用で働いている人や、保育士、介護士など、一般的に閉鎖的と言われる職場で働いている人たちなどです。こうした方たちはパワハラ被害にあっても、なかなか相談するところがないのが現状です。

また、教員は労働組合があるとはいえ、教員同士、あるいは保護者からのパワハラ被害などは、表立って相談することが難しいケースもあります。

外部の相談窓口

身近に相談窓口がない人、社内では相談しづらい悩みを抱えている人のために、外部の機関の相談窓口があります。例えば、自治体主催の労務相談、都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」のほか、司法関係者が支援する「法テラス」や「みんなの人権110番」など、無料で相談できる窓口が設置されています。

「アルバイトであるために相談しにくい」、「周囲の人に知られたくない」などの理由で会社にパワハラを訴えにくい人は、こうした公的機関の窓口に相談することを検討しましょう。介護士・保育士などの職業の方は、全国保育福祉労働組合のパワハラ相談窓口、教員の方は各自治体の教育委員会の相談窓口を利用することもできます。

厚生労働省のホームページや、自治体の公報などで情報を収集して、適切に外部機関の窓口を活用することを考えましょう。悩みは決して一人だけで抱え込まないことです。

相談する前に準備したいこと

パワハラの相談をする時は、事前の準備が必要になります。相談員にわかりやすく伝えるためには、相談内容を次のように整理しておきましょう。

1.いつ、どこでハラスメント行為をされたのか
2.行為者は誰か
3.どのような行為をされたか、何と言われたか
4.目撃者はいるか

証拠となる画像や音声データ、LINEなどのやりとりなども準備しておくといいでしょう。被害を記録した日記やメモ、医師の診察を受けた時の診断書なども有効な証拠となりえます。プライバシーが守られるのは原則ですが、家族に知られたくないなどの希望がある場合は、相談員に相談者側の意思を伝えておくことも大切です。

パワハラを相談したあとはどうなる?

パワハラ被害者が相談をためらう大きな要因は、相談したらその後どうなるかということもあるでしょう。被害者からすれば、加害者の処分がなされたとしても、その後、報復を受けるようなことはないか、社内で噂になったり、会社に居づらくなるようなことはないかという心配が常につきまとうものです。相談を受けた会社側は、被害者の不安を払拭するよう、適切な対策をとらなければなりません。

この場合、注意しなければならないのは事実の確認です。加害者の人権に配慮することも必要ですから、被害者側の主張を無条件に鵜呑みするのではなく、証拠などは慎重に判断しましょう。なかには、被害者側が加害者に嫌悪感を持っていて過剰に反応している場合もあります。あくまで、平均的な労働者の感じ方を基準として、事実確認は公正中立な態度で臨みましょう。

関係者への聞き取りをする場合は、プライバシーが守られることを説明し、被害者の確認を取ったうえで加害者、第三者にも事実確認を行います。被害が確定し、加害者を処分するとしても、その後も被害者が安心して働き続けることができるよう、十分なフォローをすることを忘れてはなりません。上司や会社の人事は、被害者のプライバシーを守る事、相談をしたことで人事評価などで不利益を受けることはないことをきちんと伝えることが大切です。

被害者がメンタル面の不調を訴えている場合は、医師の診察や専門家への相談も視野に入れましょう。それでもなお、実名で相談することに不安を感じる人もいるかもしれません。どうしても職場に名前を知られたくないという被害者のために、会社側でとれる対策もあります。それは、社内のパワハラ相談の窓口業務を外部に委託する方法です。

外部委託はそれなりにコストがかかりますが、社内の人の目を気にしないで相談できるというメリットがあります。専門家が適切に対応してくれるうえ、本人の希望により会社への報告は匿名で行なうことも可能です。

最後に

職場のハラスメントは、日常的に顔を合わせている人の間で起こるため、被害者は声を上げにくいものです。しかし、被害者が泣き寝入りしてしまうとパワハラ被害はなくなりません。一人で抱え込まないためには、適切に対応してくれる相談窓口が必要です。

会社側は、問題が解決した後もハラスメントに関する教育・啓発活動を続けましょう。ハラスメントは放置しないという毅然とした方針を示すことが重要です。ハラスメント防止には長い道のりが必要なのです。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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