一般に「年金」は、「公的年金」と「公的年金以外」に分けることができます。「公的年金」には、老齢基礎年金・老齢厚生年金・退職共済年金等、また、恩給・確定給付企業年金・確定拠出年金、国民年金基金・適格退職年金等が該当します。「公的年金以外」の年金は、年金とは別に個人が自分で積立・支払いをしてきた年金のことです。企業年金・生命保険契約や生命共済により受給する個人年金、iDeCoなどもこちらに該当します。

今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た知識や経験に基づき、年金と年末調整や確定申告関係についてご説明いたします。

目次
そもそも年末調整とは?
年金は年末調整の対象?
年金は確定申告が必要な場合も
個人年金保険は年末調整の対象?
まとめ

そもそも年末調整とは?

年末調整とは、会社員が1年間に源泉徴収された所得税の過不足分を調整し、精算する手続きのことです。年末調整を「行なう」のは雇用主(会社)で、多くの会社員の方々は年末調整の「対象者」ということになります。年末調整の対象となる方は、原則として「扶養控除等申告書」を勤務先に提出している方です。

会社員の場合、給与や賞与の支給明細に「源泉所得税」という欄があり、一定の金額が天引きされています。「源泉所得税」は、その月の給与あるいは賞与に対してかかる所得税を、会社が給与あるいは賞与から源泉徴収(天引き)して預かり、その人に代わって納税をしているものです。しかし、この天引き時点の源泉所得税は概算で計算されたものであって、ほとんどの場合、正確な納税額と一致するものではありません。

正確な納税額は、その年の1月1日から12月31日までに支払われた給与賞与の合計額から給与所得を計算し、社会保険料などの控除額等を確認して計算することができます。そこで算出された所得税と、1年間の源泉徴収(天引き)済みの所得税を比較して、過不足があれば調整するのが年末調整です。この時、源泉徴収された金額の方が算出された所得税より多ければ還付、不足があれば徴収をされることになります。

年金は年末調整の対象?

年末調整は、会社あるいは事業所という組織に所属するサラリーマンが対象です。給与は「給与所得」となりますが、公的年金・公的年金以外の年金は、ともに「雑所得」という、給与所得とは全く別の種類の所得になり、年末調整はできません。源泉徴収された税額に過不足が生じる際は、自身で確定申告をすることが必要です。

ただし、源泉徴収された所得税がない、あるいは過不足が生じず、所得税の差額調整の必要がない方については、確定申告は不要になります。

公的年金を受給されている方は、下記のケース全てに該当する場合、確定申告の必要はありません。

・公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下のケース(ただし、複数の公的年金を受給されている場合は、その合計額で判定します)

・公的年金の全部が源泉徴収の対象となるケース

・公的年金等に係る雑所得以外の所得金額(具体的には給与、個人年金や原稿料などの雑所得、株式の配当や投信の収益分配等の配当所得、生命保険の満期返戻金等の一時所得)が20万円以下のケース

なお、公的年金には老齢年金の他、障害年金、遺族年金も含まれますが、障害年金、遺族年金ともに所得税は非課税となるため、年末調整も確定申告も不要ということになります。

年金は確定申告が必要な場合も

上記とは反対に年金受給者であっても下記のような場合、確定申告をすることになります。

1、公的年金等の収入額の合計が、400万円を超えた場合。
2、公的年金等の所得(雑所得)以外の所得の金額が、20万円を超える場合。
3、医療費控除を受ける場合。
4、住宅ローンを利用して住宅を購入、あるいはリフォームした場合。
5、生命保険料控除や地震保険控除、社会保険料控除などを受けている場合。
6、ふるさと納税など一定の寄附金控除を受けている場合。
7、年の途中で退職し、そのまま再就職をしていない場合(年末時点で会社に所属しておらず、年末調整をしていない場合)。
8、災害や盗難にあった場合。

例えば、以前から掛けていた保険が満期になって戻ってきた時などは、上記の2に該当することとなり、注意が必要です。

個人年金保険は年末調整の対象?

公的年金以外の年金、つまり、個人年金保険を受け取っている場合も年末調整の対象にはなりません。

個人年金保険とは、国民年金のような公的年金とは異なり、個人が私的に保険会社と契約する生命保険の1つの商品です。契約時に、定められた年齢まで保険料を支払い、その後、一定期間または、生涯にわたって年金を受け取ることができる仕組みになっています。

公的年金が年末調整の対象ではないのと同様に、個人年金保険の毎年の受取分も「雑所得」となり、年末調整ではなく確定申告の対象になるのです。

なお、上記は個人年金保険をすでに受け取っている方のお話で、反対にその年の1月から12月の間に保険会社に支払った個人年金保険料(掛け金)については、給与所得者は年末調整で、それ以外の方々は確定申告で「生命保険料控除」として一定の所得控除を受けることができます。

また、年末調整で控除できる「生命保険料控除」は、個人年金保険料の他、一般の生命保険料、介護医療保険料と3種類あり、1年間に支払った保険料の金額に応じて一定の控除を受けることが可能です。

まとめ

年末調整は確定申告をしなくても、勤めている会社が本人に代わって所得税の調整をしてくれるという意味では会社員の特権でしょう。毎月の給与から概算で源泉徴収(天引き)をして、1年間の所得が確定したら、概算で源泉徴収された合計額と実際の所得税を比較して差額部分を納付または還付するものです。

反対に、年金受給者をはじめとする、「給与所得者」に該当しない方々は、年末調整の対象にはなりません。源泉徴収された所得税に過不足が生じる場合には、ご自身で確定申告をして還付あるいは納税をしていくことになります。

年末調整が「所得税の過不足を精算するために会社が行う手続き」であるのに対し、確定申告は「所得税の税額を確定させるために納税者本人が行う手続き」ということができます。年末調整は給与所得者を前提としているので、会社勤めをしている給与所得者は正社員やパート・アルバイトも対象です。そして、年金を含めたそれ以外の所得の方は、ご自身で確定申告を行なう必要があるということになります。

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com

 

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