「セカンド新婚」を楽しみ、愛を確認した先の夫の死

当たり前に繰り返される日常が、得難いと気付くのは年齢を重ねてからというのが一般的だ。朋子さんの夫もかつては「俺が食わせてやっている」などと言っていたが、清潔な自宅で寝起きし、どんなときも迎えてくれる家庭を維持することの労力に、50代になってやっと気付いた。

「誰かに何かを言われたのか、娘が大学を卒業したからなのか、“ママ、ホントにありがとう”と言うようになり、肩をもんでくれたり、ゴミを出してくれるようになったんです。今まで、そんなことは一切しなかったので、“おかしいな”とは思ったんですが、感謝されるとうれしい。パパと老後のプランを考える、“セカンド新婚”みたいな1年を楽しんでいました」

娘たちは1人暮らしをしているので、夫とスキンシップもし放題だったという。毎日「ママを愛している」という言葉を聞きながら寝起きするうちに、夫は痩せていった。食べる量が減り、お腹を下すようになり、だるくて起き上がれなくなった。

「とにかく病院が嫌いな人で、説き伏せて病院に行ったら、すい臓がんの末期だと言われたんです。そこからはあっという間。坂道を下るように悪化し、1か月で亡くなりました」

そこからは抜け殻のような生活だったという。夫の歯ブラシ、夫のにおいが残るシャツ、夫の食器など生活の痕跡が随所にあり、それが朋子さんを苦しめた。

「人が亡くなるとすぐに事務が始まり、相続だ保険だと言っている間はよかったんです。でもそれがなくなってからは苦しかった。親しい友達に相談しても、“若いうちに夫が死んでよかったわね。あなたラッキーよ。これからあなたの人生が始まるの”などと言う。それは夫が生きているから言えること。いなくなったら後悔だらけなんですよ」

毎晩、夫の夢を見て、夫がいない人生の虚無感と希死念慮の念が強くなったころに、長女が異変に気付いて、朋子さんを病院に連れて行く。そこでうつ病だと診断された。

「それと同時に、がんで配偶者を亡くした人の会への参加をすすめられました。似たような状況の女性達と話し合ったり、声を出して泣いているうちに、時間をかけて前向きになっていきました。そこで典代さんと出会ったんです」

典代さんとは家も近く、お互いに亡き夫を愛しているという共通点があった。お互いの夫の誕生日に、さも夫が生きているかのようにパーティをしたり、「あの世の夫とデートしよう」とおしゃれして出かけるなどしたという。

「典代さんは明るく、おおらかな人で、情が細やかで優しい。夫があたかも生きているように話せる唯一の友人だったんです」

【「死んだ人に操を立てるよりも、若い恋人でしょ」…その2に続きます】

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。

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