警察庁の『運転免許統計』(2022年)によると、現在、日本には75歳以上の高齢者の運転免許保持者が、約947万人いるという。高齢ドライバーによる交通事故が報道されるたびに、免許返納について議論される。しかし、一部の都市部を除き、車がなくては生活ができない地域は多い。買い物、仕事、コミュニケーション、医療機関への受診……親を免許返納させてしまったことで、介護負担が増したり、認知症のリスクが高まったりしているケースがあるという。

明子さん(57歳・パート)は、「4年前、兄(60歳)が母(84歳)に免許返納をさせたんです。それから、母の生活が困難になってしまって、私が免許を取りました」と語る。そのときに、再会してから10年間、友情を温めていた高校時代の親友・靖子さん(57歳)と疎遠になったという。

【これまでの経緯は前編で】

55歳での運転免許講習、教官は優しかった

自動車学校はかつて「教官が怖い」「教官が横暴」というイメージがあった。指導教官によるハラスメントを受けた経験談を語る人も多い。

「それが今は全然違うの。優しく、わかりやすく教えてくれて、褒めてくれる。若いイケメン先生が、“先日、70歳の女性がウチで免許を取りました。頑張りましょう。できますよ”と励ましてくれたんです」

それを靖子さんに話すと、「きっとそのおばあちゃんは、かつて免許を持っていたのよ」と鼻で笑った。高校時代の靖子さんなら、そんなことは言わなかったはずだ。

「兄にマイナスの言葉を投げつけられ続けた私の心を救ってくれたのが靖子。なぜ、運転免許にそこまで反対するのかと思いました」

明子さんは運転免許取得に向いていたのか、追加講習が発生することもほとんどなく、トントン拍子に合格する。

「オートマ限定だし、もともと用心深い性格なのと、主人がいろいろ教えてくれたんです。例えば、“ハンドルの位置は常に2時50分の位置だ”とか、“首を大げさに動かして、バックミラーとサイドミラーを確認すべし”とか、“コース内の一時停止では5秒はとまって”とか。主人は20歳の時に自動車学校に通ったのですが、そのとき、相当教官にいじめられたらしくて、恨みを晴らすかのように教えてくれました」

また、明子さんは度胸があり、車幅感覚をつかむ天賦の才があった。

「運転免許を取ったら、靖子とドライブに行こうと思っていたんです。このときに私も“あんだけ反対した靖子の鼻を明かしてやりたい”という気持ちがあったと思います。これって、今思えばマウンティング。“優位に立ってやろう”という気持ちがあると、どうしてもぎくしゃくしてしまう。それが、高校時代の親友であっても」

そして、靖子さんを助手席に乗せて、実家がある街までドライブに行く。電車では3時間かかるが、車なら1時間半で行ける。

「私の予定では、お互いの親に会って、懐かしい高校に行って、地元にいる友達の顔を見て、農作物直売所や道の駅で野菜をたっぷり買って、娘の言葉なら“キャッキャウフフ”としながら帰る予定だったんです」

【運転のダメ出し、渋滞で不機嫌になる親友と決別する……次のページに続きます】

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