精神科医の和田秀樹さん(63歳)が高齢者の新たな可能性について綴った『シン・老人力』(www.shogakukan.co.jp/books/09389117)。読めば勇気と元気がわくと話題の同書から、高齢者がいつまでも若々しく自分らしく生きるために、「口グセ」にしてほしい言葉について、和田さんが紹介します。
文/和田秀樹
意見を変えることをためらわない
一般的に、主義主張を曲げないのは立派なことで、意見が変わる人間は信用できないと思われがちです。たしかに「長いものには巻かれろ」式に、損得勘定からコロコロと意見を変えるような人は信用されません。
しかし、間違いに気づいたり、自分には合わなかったりした場合、「やっぱり自分は……」と意見を変えられる人は、自説に固執して誤りを認めない人よりも、ずっと立派だと思います。
たとえば日本で高齢者人口が7%を越え、高齢化社会になった1970年、平均寿命は男性69・31歳、女性74・66歳でした。
このころの老人の常識を現代に当てはめることはナンセンスです。
同様に、人口も増加基調で景気のよかったころの経済理論を、今の高齢化が進んで人口が減少していく局面で頑固に主張するとか、当時の家族制度こそ日本の美徳だなどと論じても意味はありません。
かつての発言に縛られない柔軟性
もちろん多数派に迎合するという意味ではありません。
これまでの理屈では通らないと思ったときは、自分の主義主張やかつての発言に縛られない柔軟性こそ大切なのです。
それには前頭葉を若く保ち「かくあらねばならない」という思い込みから自由になっておくことが必要です。
ここまで述べてきた私のお勧めなどを”やらないよりマシ”とでも試してみて、「やっぱり自分には合わないな」と思ったら、さっさと止めるべきです。
統計的なデータや十分な経験則を踏まえても、読者の100%に当てはまるとは限らないからです。
ですから私は、自分の考え方や方法論だけが正しいとは言わないし、反論も歓迎しています。
何かを試して、それがダメなら別な方法を試すという「試行」を重ねているのです。
それが幸せにつながる柔軟な生き方だと、私は日々、実感し続けています。
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和田秀樹(わだ・ひでき)
精神科医。1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は川崎幸病院精神科顧問、ルネクリニック東京院院長などを務める。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。著書に『80歳の壁』『70歳が老化の分かれ道』など多数。