写真はイメージです。

NHK『日曜討論』ほか数々のメディアに出演し、シニア世代の生き方について持論を展開するライフ&キャリア研究家の楠木新さん(69歳)。人生100年時代を楽しみ尽くすためには、「定年後」だけでなく、「75歳からの生き方」も想定しておく必要があると説きます。楠木さんが10年、500人以上の高齢者に取材を重ねて見えてきた、豊かな晩年のあり方について紹介します。

地方在住者は定年後もつながりやすい

かつて仕事で地方の県庁所在地にある市役所の人事課長と話したことがあります。公務員の60歳以降の再任用が検討されていた時、地方都市の役所の人事課長と、東京圏や大阪圏の市役所の人事課長が一緒になったことがあったそうです。

都心近くの人事課長は、「職員が定年退職して何もしなければ家に引きこもってしまうことにもなりかねない。定年後も元気で暮らしてもらうために、職員に対してどういう研修をすればよいか」と悩んでいたというのです。

一方で地方の人事課長は「退職してもやることがいっぱいある職員は多い。実家の農作業だけでなく地元の自治会の幹事や消防団の役員など、地元にいる人たちから頼りにされている。あまり心配していない」というのです。

実際に畑仕事や果物づくりをしている人は仕事や役割があるので、人と出会う機会や刺激もある。それに比べると都市部の定年退職者は社会とつながる機会がとても少ないのだろうと話していました。

地方でも県庁所在地くらいの都市部では、定年後に人とのつながりを失ってしまう例は結構あるそうです。家にこもりがちの生活になり、テレビの前から立ち上がれなくなったと述懐した人もいました。

その役所の職員に聞いてみると、農業などの取り組める仕事の有無や、住んでいる地域が活性化しているかどうかなどで大きな差はある。ただ団塊の世代が70代の半ばになったことから、今後は決して小さな問題ではなくなるだろうと話していました。

都会になればなるほど、人と人との結びつきや交流は希薄なので、定年後の新たな人とのつながりについて、定年前から徐々に考慮しておくべきなのでしょう。

ビジネス的な視点を持ち込みすぎない

人とのつながりの課題のなかには、会社組織のようなビジネス的な共同体と、地域や教育分野の共同体とのギャップもあります。ビジネスと公共的な分野との活動ルールには大きな違いがあるのです。元会社員は、同じ地域活動でもお金や報酬につながるような活動であれば比較的スムースに移行できますが、社会貢献的な行為になればなるほどそのギャップは大きくなります。

私も、ビジネスの世界から教育分野に移ったので、当初はその違いにとまどうことがありました。会社組織では、経営者や社員の間に売上高や利益額の達成などの共通目標が存在します。それを基盤にして仕事を進めればそれほど困ることはありません。ところが、大学では各学生の考えていること、求めているものが多種多様でばらつきが大きいのです。そのため全体に語りかけても理解の仕方や反応は異なります。

私のモノマネをする学生がいて、大学に着任した頃は「みんなわかっているか。大丈夫か」というのが口癖だったそうです。自分では全く意識していませんでしたが、自分の意図が伝わっているかどうかを確認したかったのでしょう。

大学の教職員も、研究、教育、学校運営においてビジネスのように一致した行動や対応をするよりも多様性が求められています。私から見ると、サラリーマンというよりも個人事業主に近い印象です。

大学に慣れてくると教職員や学生間の相互の関係が本筋で、会社内の人間関係の方が特殊に思えてくるから不思議なものです。一時期、株式会社組織の学校が脚光を浴びたこともありましたが、それほど大きく発展していません。

そこで感じたのは、ビジネスの世界は組織本位、自分本位が優先だが、その考え方をそのまま教育や地域に持ち込むと失敗するだろうということです。優秀なビジネスパーソンほど、ビジネス的思考が強いので、そこは注意すべき点になります。

* * *

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楠木新(くすのき・あらた)
1954年、神戸市生まれ。1979年、京都大学法学部卒業後、生命保険会社に入社。人事・労務関係を中心に経営企画、支社長などを経験する。在職中から取材・執筆活動に取り組み、多数の著書を出版する。2015年、定年退職。2018年から4年間、神戸松蔭女子学院大学教授を務める。現在は、楠木ライフ&キャリア研究所代表として、新たな生き方や働き方の取材を続けながら、執筆などに励む。著書に、25万部超えの『定年後』『定年後のお金』『転身力』(以上、中公新書)、『人事部は見ている。』(日経プレミアシリーズ)、『定年後の居場所』(朝日新書)、『自分が喜ぶように、働けばいい。』(東洋経済新報社)など多数。

 

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