育児や節約情報を交換する唯一の友達になる
郁子さんと香織さんは時間をかけて距離を縮めていった。お互いに「若いママと仲良くなりたいものの、話が合わないからこの人と友達になろう」という本音がどこかにあったのだろう。親しくなるまでに6年の歳月がかかったという。専業主婦の人と話をしていると、自己開示をなるべくしないように話をすすめる傾向がある。
「だって、ちょっとした話に尾ひれがついて、一気に広まるから。香織さんは離婚しているので、特に警戒心が強いです。仲良くなるのに時間がかかったのは、幼稚園はお迎えがないので、行事のたびに顔を合わせて立ち話する程度だったこと。それに香織さんと私は生活圏が微妙に違ったことです」
そんな2人の距離を縮めたのは、お互いの子供が小学校4年生のときにPTA役員になったこと。
「当時のPTAはやたらと集まりが多く、専業主婦が就任することが多かったんです。香織さんと私は“校外”という委員になりました。主な活動は登下校時に信号がない交差点で子供を見守ること。2人1組で近くの神社のお祭りや市のイベントのパトロールをするうちに、おしゃべりするようになりました。そこで、お互い同じ不妊クリニックに通っており、ほぼ同じ時期に切迫早産になり、同じ病院に長期入院していたことがわかったのです」
高齢出産は妊娠リスクが高く、早産が懸念されると、入院し臨月まで絶対安静になることも多いという。2人は、陣痛を止める薬を点滴で入れ続けた。末期には点滴針を腕には刺せなくなり、手の甲からも点滴をしたそうだ。
「あの痛みを共有できる人はお互いに初めてでした。それから毎年、率先してPTA役員になり、最も面倒な”卒対”(卒業対策委員)までやり、それは中学校の3年間も続きました。6年間も毎週のように会っていれば、チビとまほちゃん(香織さんの娘)たちが別の高校に進学しても定期的に会いたくなるんですよ。香織さんは、育児、進学、節約の情報を交換する唯一のお友達になりました」
お互いに経済的にもゆとりは少なく、節約情報も交換していた。
「香織さんの話を聞いていると、実家暮らしで家賃がなくて済むとはいえ、母子家庭って大変なんだなと。ウチはパパがいるだけマシなんだと思い、少しは感謝できるようになり、夫婦関係もちょっとだけよくなりました」
【娘一筋だった女友達は、男にハマっていった……その2に続きます】
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。