「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
2022年8月、厚生労働省は2020年に離婚した夫婦のうち、20年以上同居した「熟年離婚」の割合が21・5%に上り、統計のある1947年以降で過去最高になったと発表した。
夫と死別した須賀子さん(56歳・会社員)は、学生時代の友人・桜さん(パート・56歳)と学生時代の仲間の飲み会で久しぶりに会う。桜さんはモラハラかつ暴力をふるう夫と離婚して半年ほど経過した後で、困窮していた。コロナで働ける時間が短縮され、家賃5万円さえも払えないというのだ。その相談を受けた須賀子さんは、桜さんに同居を提案するが……。
【これまでの経緯は前編で】
「モラハラされる理由もわかる気がする」
桜さんは飲み会があった日の翌週末から須賀子さんの家にやってきた。
「それまで住んでいた家賃5万円のアパートは害虫が出るし、湿気や悪臭があるので住みにくいと言っていました。彼女が私に入れる家賃は当面のところ2万円。私はたった一人で100㎡近くの家に住むのが怖かったので、無料でもよかったんですが、けじめのためにこの金額にしました」
最初の数か月間は順調に過ぎて行った。
「私の仕事も忙しく、桜も食事を作ってくれたりして、気を利かせてくれたんですが、料理が美味しくないんです。煮物が生煮えだったり、変にしょうゆの味がきつかったり……だから、”食事は各自で用意しよう”と言いました」
それならばと桜さんは食器を洗おうとする。食洗器があるのに使いたがらず手洗いをしては食器をよく割る。そして、足音やドアの開閉音、くしゃみ音なども大きい。
「夫も娘たちもそんなに音を立てないので、驚きました。あとは、ハサミなどを元の場所に戻さない。外で話しているといい人なのですが、一緒に住むと変な人の典型かも。私が生活音を指摘すると恐縮し、わざとらしく静かにする。そうそう、私が大切にしていた食器を桜が洗って、縁が欠けちゃったんです。私は欠けた食器が嫌いなので、こっそり捨てたんです。そのことに気付いたんでしょうね。その翌日にプラスチックの食器を買って来て当てつけのように使っているんですよ」
桜さんの行動は取りようによっては嫌味になるが、本人にその気はない。
「変な感じなんですよ。これでは夫からモラハラされたり、手を上げられたりする理由もわかる。物事には原因があって、結果があるんですね」
そんな生活が半年も続くうちに、須賀子さんは家に帰るのが苦痛になっていく。
「私に話しかけたいのに、ためらっているような気配が伝わってきて、顔を合わせるのも嫌になってしまったんです。さりとて追い出すわけにもいきませんから」
【桜さんの“贅沢”にイライラするように……次のページに続きます】