【友人という病】「熟年離婚でホームレス寸前の同級生…」同居で助けた友人に寄生されていく終の棲家～その２～

高級ケーキやキャラクターのマグカップに怒り

現在、同居して1年半だというが、状況は基本的に変わらない。

「私も我慢を覚えました。便座が汚れていても、洗面台の周りに桜の長い髪が散らばっていても、気にならないよう心を鍛錬しました。下の娘にグチを言うと“ママみたいに難しい人は他人と暮らすのは無理だよ”と言うんです。私は自分のことを寛大な方だと娘に言うと、娘は“ママは真逆。すっごくうるさいよ”と笑ったんです」

須賀子さんには独自の作法がある。例えば、飲み会の会費などは封筒にピン札を入れて用意したり、住宅用のマンションで目的階に到着したら扉が閉まる前に1Fのボタンを押したりする。他者がストレスを感じないように、2手先を読み行動する。だから、何も考えずに行動する桜さんの存在が苦痛になるのはよくわかる。

「若くして母になり、当時は共働きも少なく“舐められちゃいけない”って気持ちが強かったからかもしれません。だから、何も配慮しない桜に腹が立つ。ウチには2万円しか入れないのに、毎日なみなみとお湯をたたえた風呂に入り、ドライヤーも使いまくる。私は下着くらいしか洗濯しないのに、桜は毎日パジャマもトレーナーも洗っているんです。桜がウチに来てから、光熱費は2倍になりました」

さらに、須賀子さんをいら立たせているのは、桜さんの浪費だ。高級ケーキやキャラクターグッズなどを購入しているのだ。

「1切れ1000円以上するケーキ店の箱が捨ててあり、私の分はない。キャラクターのマグカップがキッチンに置いてあったときは、イラッときました。しかも、そのコップで私のココアを飲んでいるんですよ」

桜さんは「このままではホームレスになる」と言うので、須賀子さんは同居を提案した。しかし、現実はそれほど切迫していなかったのかもしれない。

「最近、桜には彼氏ができたみたいなんですよね。派手な下着が脱衣所に干してあるのですぐにわかる。こういうことを気にしてしまう私も、本当に卑しくて、自分が嫌」

そして、もうひとつ気付いたことがある。それは、家にあったお金が無くなっていることだ。

「亡くなった夫がポケットに小銭を入れる人で、洗濯機のラックの奥にコインを入れる茶筒を置いていたんです。それをすっかり忘れており、久しぶりに中を見たら、100円玉と500円玉がきれいになくなり、10円玉以下の小銭しかないんです」

娘たちはそんなところから小銭を取らない。考えられるのは桜さんだけだ。

「金額にしたら3000円くらいなんですが、これも主人の思い出だし……娘に相談すると心配するだろうから何も言えません。今年の初詣は、氏神様に“桜がこの家から出ていくこと”を、真剣に祈ってしまいました」

生涯未婚率が上がり、離婚も増えた結果、単身世帯も増えている。国勢調査によると、1985年に約789万だった日本の単身世帯は、20年後の2005年は約1446万世帯と約２倍に増加。最新の2020年の調査では、単身世帯は約 2115 万世帯で、全世帯数の38％を占めている。

2030年には約半数が「おひとりさま」になるという。ひとりは楽だが急病や事故などアクシデントには弱い。須賀子さんも「もし、私がお風呂で倒れたら、少なくとも孤独死にはならない」と自分に言い聞かせるように桜さんと同居を続けている。ただ、そのストレスがどのような不調をもたらすか。もし桜さんを追い出したところで、共感力が高い須賀子さんの心にどのような影響を与えるか、それは誰にもわからないのだ。

取材・文／沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』（ともに小学館新書）がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』（小学館）、Webサイト『現代ビジネス』（講談社）、『Domani.jp』（小学館）などがある。『女性セブン』（小学館）、『週刊朝日』（朝日新聞出版）などに寄稿している。