「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
2022年8月、厚生労働省は2020年に離婚した夫婦のうち、20年以上同居した「熟年離婚」の割合が21・5%に上り、統計のある1947年以降で過去最高になったと発表した。
須賀子さん(56歳・会社員)の学生時代の友人・桜さん(パート・56歳)は、2020年に23年の結婚生活に終止符を打った。「原因は夫のモラハラ。私が知っているだけでも、言葉の暴力と束縛がひどい男で、離婚できてよかったと思いました」と語る。
夫は結婚30年目にバイク事故で死んだ
当の須賀子さんの夫は、2019年に死去した。まだ53歳という若さだった。
「私たち夫婦は会社(東証一部上場企業)の同期で、お互いに運命を感じたのか、入社1年目に結婚してしまったんです。当時はお金もないので狭いアパートでの新婚生活をスタート。25歳のときに娘が生まれて親になり、それから二人三脚で人生を歩んできました。とても優しい人で、私が仕事を続けられるように陰に日向に動いてくれました」
夫のサポートもあり、須賀子さんは勤務する会社の“産休・育休取得第一号”になった。妻は夫を助け、夫は妻を助ける……理想の夫婦と言われた二人を別れさせたのは、交通事故だった。
「娘2人の大学の学費を払い終わった翌週に、夫から“このバイクをどうしても買いたい。ずっと憧れていたんだ”と言われたんです。私は幼い頃にバイク事故を見たことがあり、バイクを忌避していました。でも、夫のたっての望みを叶えたいと思い、“怖い”と思いながらも承諾しました。それから数年間、恐れていた事故もなく安心していた矢先に夫がバイクで転倒したんです。病院で数日間生き、私の手を握り返してくれたこともあったんですが、あるとき容体が急変。みるみるうちに足が黄色くなり“あ、もう亡くなるんだな”と涙が止まりませんでした」
結婚30年目、これから夫婦の人生と思っていた矢先に、夫は帰らぬ人になる。
「悲しかったんですが、葬式、仕事、手続き、相続……義母が生きていたのでそのケアにも追われ、夫を悼むこともできなかった。そうこうしているうちにコロナになって、ふと落ち着いてみると、家に私しかいないことに気付いたんです」
須賀子さんの家は、首都圏にある100㎡近くあるファミリータイプのマンション。娘2人も独立しており、たった一人で暮らすには広すぎた。
「家族の思い出も詰まっており、結婚した娘たちの“実家”であり続けたいので、引っ越しの選択肢はありません。冷静に見ると夫のモノだらけなので、外出自粛期間中に夫の服や本、レコードなどを処分しました。フィルムカメラ、コーヒーミル、カレーのスパイス……夫がいなければ使わないものをどんどん捨てるうちに、気持ちがサッパリしてきたんです」
夫は飽きっぽいのに凝り性で、多様なものがあった。それらを処分したら、まるまる1部屋が空いた。
【ホームレスになるかもしれない、と言う同級生を救いたい……次のページに続きます】