取材・文/沢木文
「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
圧力や押しが強い友人との関係に悩んでいる人は多い。「縁を切ればいいのですが、そういうこともできなくて……」と語る千香子さん(56歳)を悩ませているのは、20年間親しくしてきたママ友・夏美さん(56歳)の女王様気質だった。
【これまでの経緯は前編で】
「だからあなたのご主人、愛人宅から帰ってこないのよ」
自由になるお金と時間が同じの千香子さんと夏美さんは、特にトラブルもなく20年近く付き合いを続けてきたという。
「毎月1~2回、新しく開店したレストランでランチをしたり、子供達が成長してからはディナーをしたりして、お互いの近況を話していました。お店は私が調べて、私が予約します。夏美さんは何もしない。それは旅行に行くときもそう。それでいて、1円単位までワリカンなんですよ」
二人は専業主婦であり、仕事をする願望もない。病院を経営する医師でもある千香子さんの夫と、不動産関連会社の経営者である夏美さんの夫がもたらす潤沢なお金を使い、レジャーを楽しんできた。
二人の話題について聞くと、子供の成長、共通の知人の噂話、歌舞伎やオペラ、宝塚歌劇団の新しい演目、着付けやテニスなどの習い事についてなど多岐にわたるという。
「あとは、お互いの主人の愛人のグチ。ウチの主人は病院のスタッフと長く愛人関係を続けているのですが、毎日必ず家に帰ってきます。でも、夏美さんのご主人は、愛人宅に入り浸り。そんな話を聞くたびに、私のほうがマシだと思うし、他人に対して感謝がないから、ご主人も家に帰ってこないのよ、と心の中で思っていました」
夏美さんのことを尊敬したり、親しく思う気持ちはあるのだろうか。
「ウマが合う、というのはあります。あとは、夏美さんは東京都心で生まれ育ったお嬢様なんです。だから私の知らないことをたくさん教えてくれることは尊敬しているかな。23区内にも格差があることや、区の中でも住んでいるエリアによって文化の差異があるんですよね。夏美さんはそれを知った上で行動しているところは潔くて好きですね」
適切な温度が保たれたまま続いた友情は、コロナ禍で風向きが変わっていった。
「ウチは医療関係なので、外食は自由に行けない。そんな私に対して、“ステイホームを守るなんてバカじゃないの?”などと言ってくる。夏美さんは、いきなり決めつけるような口調で話すようなところがあり、以前は気にならなかったのですが、コロナ禍ではイラっとしました」
千香子さんはコロナ感染を恐れていた。医師である夫に対しても警戒するようになり、やがて夫は愛人宅から帰ってこなくなってしまった。
「30年間、公私ともに付き合っているから、あっちのほうが実際の夫婦みたいなもの。ウチの息子は医者になったのですが、今は主人の病院に勤務しています。息子も愛人のほうに懐いているんです。私も夏美さんと同じくらい、夫から必要とされていないんだと愕然ときました」
【「あなたがやってくれないから、我慢していたのよ」……次のページに続きます】