文/鈴木拓也

60歳で家事を「棚卸し」してみる

60代は、定年を迎え、子の扶養義務からも解放されるなど、自由時間を満喫できる年代と言えるだろう。

一方で、残り続けるのが日々の「家事」。三大家事といえば、掃除・洗濯・料理だが、そのほかの家事を含めて、もっと細かく分類すると180種類に及ぶという。もちろん、この中には1季節に1回すればOKというものもあるが、家事は生活の中で大きなウェイトを占めるものであることに変わりはない。

そこで、60歳を機にいっぺん家事を「棚卸し」してみては、いかがだろうか?

そう説くのは、書籍『60歳からの疲れない家事』(青春出版社)を上梓した本間朝子さん。「知的家事プロデューサー」として活躍する本間さんは、本書で「疲れない」「がんばらない」をキーワードに、この世代へ向け家事の見直しをすすめる。それは、不調だったり、疲れていても、無理なくできる家事。手を抜くのではなく、手間を省くことで、合理的に処理していくという考え方だ。

そうした「疲れない家事」とは、どのようなものであろうか。本書より、いくつかを紹介しよう。

フロアワイパーを「主役」にする

掃除について、本間さんがいの一番に推奨するのが、「掃除機をやめて、フロアワイパーを主役」にすることだ。
フロアワイパーの利点は、軽くてダストパックのメンテナンスが不要なこと。あらかじめシートを5枚重ねにしておけば、取り替える手間も減る。

あわせて、家具の配置も見直して、フロアワイパーのヘッドが入るくらいに、家具同士あるいは家具と壁の間に隙間をもうけておく。こうしておけば、隙間に埃がたまったままになるのを防げる。

同時に掃除の時短化も目指し、その一環として生活動線の中に掃除を組み込んでしまう。本間さんは、次のように説明する。

ポイントは、掃除道具が家のあちこちに置いてあるようにすること。たとえば、ベッドの横にフロアワイパーが置いてあれば、朝起きたときにそれを持って洗面所に行きながら床掃除をすることができます。
洗面台に小さなスポンジがあれば、顔を洗うついでに洗面台を掃除して、顔を拭いたタオルで洗面台や洗濯機の上などを拭いてそのまま洗濯へ。(本書24~25Pより)

やる気が起きない日は、無理せず掃除シート1枚分だけ拭く。それもフローリングの隅だけ掃除すればOK。「見えるホコリがなくなるだけでもスッキリします」と、本間さん。

「洗濯基地」をもうけて洗濯の手間暇を減らす

洗濯は、洗う、干す、たたむの過程で、動線が長くなりがちな家事。そのための移動と手間を減らすため、本間さんがすすめるのは「洗濯基地」をつくるというもの。

まずは、洗濯乾燥機を導入すれば、洗う場所と干す場所は同じになる。洗濯乾燥機を使う予定がなければ、洗濯機の近く(あるいは浴室内)に突っ張り棒をつけて室内干しする。

乾いた洗濯物をいったんしまう場所も、洗濯機のそばに確保し、その場でたたんでしまう……というふうに、洗濯機を中心に洗濯の全工程を1か所に集約することで、この家事はもっと楽になる。

それとは別の発想として、洗濯する物の数量を減らすというやり方も提案されている。例えばバスタオル。「割と大きいうえに、乾きづらいという難点」があるため、これに代えてフェイスタオルを1~2枚使う。キッチンやトイレのマットはやめてしまうか、(珪藻土素材など)洗濯不要なものと交換する。

また数として最も多い衣類は、今後着ないのものを手放す。もっとも、着る物は思い入れがあるだけに、処分にはためらいがあるかもしれない。その判断材料として、本間さんは次のようなやり方をすすめる。

衣替えのタイミングで衣類を裏返して収納することをご提案します。
シーズン後まで裏返しのままだったら、ワンシーズン一度も着ていないということ。「もう処分してもいいかも」と背中を押してくれるかもしれません。
オフシーズン中は、服を預かってくれるクリーニング店を利用して、「お金をかけたくない」という気持ちになった服は手放すと決めてもいいかもしれません。(本書52Pより)

調理道具はダウンサイジングする

「疲れない家事」で、いろいろと工夫のしがいがあるのが料理。
調理道具に関しては、ダウンサイジングの考えで楽にする方法が1つ。例えば、大きく厚いまな板が不便だと感じているなら、小さく薄いまな板2枚にして、野菜と肉魚を使い分けるなどすれば、手軽で便利に。子どもが巣立っていて夫婦二人暮らしなら、炊飯器は一回り小さい3合炊きに買い換えるのもいい。釜が軽くて、お米を研いだり、洗うストレスが減るというメリットもある。

さらに料理の献立も、毎日のように栄養バランスをあれこれ悩むのはやめてしまう。本間さんは、栄養バランスを考えるのは、数日に一度の買い物時と決めているそうだ。

たとえば3日分まとめ買いするなら、肉、魚、葉野菜、根菜、豆類、海藻、果物をバランスよく選び、3日でそれらの食材を消費すれば、3日の枠の中では栄養バランスがとれていると考えます。(本書67Pより)

そして献立の中身も、「麻婆豆腐のときは中華スープと根菜サラダ」というふうに、セットで固定してしまうのも手。野菜の皮はいちいちむかず、ホイル焼きのような後始末が容易な料理を増やすなど、やりようはいろいろ。これは決してズボラではなく、将来をも見据えた賢い家事のやり方といえる。

* * *

このように、本間さんが提案する「疲れない家事」は、われわれが長年のうちに身につけた、家事に関する思い込みを払拭してくれる。よりラクに、より効率的な家事を会得したい方に、本書は役立つ1冊となってくれるはずである。

【今日の定年後の人生に役立つ1冊】
『60歳からの疲れない家事』

本間朝子著
青春出版社

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文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。

 

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