夫がこそこそ飲む薬名を検索したら……
夫が鈴子さんにPC操作を教えた回数は、3回。1回30分程度だった。有希さんが目を離したすきに、2人はLINEを交換していたのではないかと語る。
夫が教えるようになり、鈴子さんはブラインドタッチの宿題も行うようになり、エクセルとワードの宿題もしっかりとこなした。鈴子さんと有希さんの再会から8か月後、飲食関連会社の事務職のパートとして採用された。
有希さんが「これを着て面接に行きなさい」というスーツを着て、年齢相応のメイクを施したことも大きい。言葉使いについてもアドバイスをしていたという。
「社会復帰をお祝いしたいというと、断って来たんです。わかってはいましたが、彼女の中で耳に痛いことを言う私は悪者なんですよ。それは今までの活動の中で知っていましたが、やはり旧友ですからさみしいですよね。でも、彼女が自立の道を開いたことで、生活保護を受ける人が減り、本当に支援が必要な人にお金が回るようになる。働く人が多くなれば、子供たちに負荷がかからなくなる。それでいいんです」
鈴子さんが就職してから半年間、夫婦仲は変わらなかった。週末に飼い犬を連れて、ホテルステイを楽しみ、テニスやゴルフにも出かけた。
「あるとき、ホテルで食事の前に薬を飲んでいる。明らかに私に隠すようにこそこそと……。そもそも、夫は薬が大嫌いで、胃腸の不調はハーブで、ウイルス系の感染症は温熱療法で治す。そこで“どうしたの?”と聞くと、“なんでもない”と言う。そこで深堀りすると”もう帰ろうか”などと静かにキレるので、その場はそ知らぬふりをしました。そして、夫が温泉に行っているすきに荷物を見て、薬名を確認。それを検索すると性感染症の薬だったんです」
夫婦関係は15年以上もない。それなのに性感染症になっているのはおかしい。夫は男女関係に潔癖で社会的立場もある。そして聡明な糟糠の妻・有希さんがいる。多くの女性は近づかないタイプだ。
「そのときに、ピンときたのは鈴ちゃんです。彼女は人の防波堤を乗り越える強さを持っている。ホテルから帰って1週間してから、“鈴ちゃんとしたの?”と聞くと、ありえないほど狼狽している。そして家から出て行ってしまったんです」
夫は朝方に帰って来た。そして「なんでわかったんだ」と言った。頻繁に浮気をしている夫婦なら、「短期の浮気は気の迷い」と流すこともできるが、有希さん夫婦はそうではない。お互いにモテるのに、外には見向きもせず、互いだけを見て、愛して生きてきた。
「まさか、薬を検索したとも言えず、“直感?”と言ったら、申し訳ないと言う。私が黙っていると、夫は言い訳を話し始めました。聞けば、私としか女性関係がないというコンプレックスがあり、そこに鈴ちゃんがつけこんだ。鈴ちゃんはとても技巧に優れており、夢中になってしまったのだとか」
鈴子さんは、奔放だ。妊娠の恐れもない54歳なので、避妊具をつけようとする夫を「いいのよ」と制した。
「そして、夫はしてしまったそうです。逢瀬は2回程度で、その後、鈴ちゃんは夫に飽きたのか、音信不通になったそうです。そんなはずはないとさらに聞くと、夫は鈴ちゃんにねだられるまま、300万円を渡していた。情けないやら悲しいやら。離婚とまでは行きませんが、確実に亀裂は走りました。前のような関係になるには、時間がかかると思います」
その後、有希さんは家庭内別居から、別居をする。リビングには鈴子さんの気配があり、夫にも「ぬぐえない不潔感」が強くなった。夫はリビングのテーブルやソファを変えることを提案するも、拒否。その頃には、夫の洗濯物を見るだけで吐き気を催すようになった。
そんな有希さんを見て、子供たちが「そんなに深刻に考えるな。愛しているのはママだけなんだから」と言ってきた。とっくに成人しているからといい、子供たちに自分の不祥事を伝える夫に対して、生理的に拒否するようになる。
「たかが浮気、されど浮気」。不適切な肉体関係を許容できるか否かは当事者になってみないとわからないのだ。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。