取材・文/沢木文

「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。

コロナ禍以降、生活保護世帯の進学、自治体の小・中学校の補助金など「格差」にまつわる話題が増えた。人類史全体の格差について解析した、『格差の起源 なぜ人類は繁栄し、不平等が生まれたのか』(オデッド・ガロー著 NHK出版)もベストセラーを続けている。

甲信越地方に住む美樹さん(51歳・看護師)は、親友・晶子さん(自営業・51歳)に「恩知らずだから切ったんですけど、もやもやが残るんです」と語る。

2人は小学校から高校まで同じだった。卒業後、晶子さんの実家が投資詐欺にひっかかり一家離散。両親は心労で亡くなった。

美樹さんは36歳から10年間、故郷を愛する晶子さんの帰省を毎年受け入れていた。しかし、それが終わったのは、美樹さんの息子(当時15歳)が、晶子さんと高校の担任の先生(既婚者)がラブホテルに入るところを見てしまったから。少年特有の潔癖さで晶子さんを拒否したのだ。

【これまでの経緯は前編で】

親友の夫にも色目を使う

美樹さんは晶子さんに「帰省は今年で終わりにしない? 子供達も忙しくなるし。私もちょっと疲れてきたし」と言った。すると、晶子さんはショックを受けた様子で、「なんで? 私、美樹にも会えなくなるの?」と言い、1時間程度話し合う。そして美樹さんに拒否されていることを知ると、「あっそ、じゃあもういいわよ」と言った。

「ラブホに行ったのを息子が診たんです、主人に色目を使うのにムカついたんです、お風呂に入ると20分以上シャワーを流しっぱなしにするのが気になるんです、トイレを2回流しペーパーをたくさん使うのが困るんです、それなのに1円もウチに入れないのはどうかと思うんです……なんて、ホントのことは言えませんよね。

晶子は昔から鈍感。キレイな子の常で、周りはみんな自分を好きで、自分を助けてくれると思っているんです。だから私しか友達がいない。そのたった一人の親友から拒否されたことを察したんでしょうね」

晶子さんに「もう来ないで」と切り出した決定打は、唐揚げだったという。美樹さんは夕飯で残った唐揚げを、翌日の子供の弁当に入れようとダイニングテーブルから、台所に移した。そこに湯上りの晶子さんがビール片手にやってきて、「ラッキー」と食べてしまったのだった。

「私が“ああ!”と言ったときに、晶子はいつものキレイな顔で笑っていた。そのときに、“この人はお金に困ったことがないんだな”と思ったんです。そして、晶子がいると彼女と比べてしまうのがつらくなってきた。いつも素敵な服を着て、東京でカッコよく生活していて、いつも男がいていろんな恋愛をしている」

晶子さんは大学卒業後、何かの会社を興しているのは知っていた。美樹さんは「会社をやっていると言っても、名ばかりだろう。なぜなら親が投資詐欺に遭って住み慣れた家を手放すときも、お金の援助をせず、見殺しにしたのだから」と思っていた。

「彼女の好きだったところは、自由奔放さだったと思います。私は毎日、家族の世話とお金のやりくりに追われ、自分のことが何もできない。だからこそ、晶子の優雅さが癒しになっていたんでしょうね。

私も実家にお金があれば、大学に行きたかったですよ。でも、“女が大学に行ってどうするんだ”と家族全員に反対されて、看護学校に進学したんです」

美樹さんの父親は「看護か介護を学ぶなら金を出してやる。俺たちが要介護になったら恩を返せ」と今でも言っているという。

成績優秀な美樹さんは専門学校卒だが、勉強嫌いな弟2人は県内の私立大学に進学したという。美樹さんの母親はJAに勤務しながら農家を手伝っていたが、その収入は全額、父親が管理していた。

「それに比べれば、ウチの主人は私の給料は別物と考えていてくれるからマシ」と言う美樹さんは、家事・育児を行うために、9~17時の地元の病院に勤務している。毎日、同じような作業をしており、スキルアップはしていないという。

【ウォータークーラーを母校に寄付していた……次のページに続きます】

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