取材・文/柿川鮎子
2023年は卯年。ウサギに関連するいろいろな商品や話題が登場して、ウサギ飼育への関心も高まってくる可能性があります。今回はウサギ飼育について、飼い主さんが気を付けたい点や病気などについて、高田馬場動物病院 by アニホックの美山幸輝先生に聞いてみました。
ウサギに関する基礎知識
Q ペットとしてのウサギの魅力について教えてください。
A ウサギの魅力についてよく聞かれますが、なんといっても見た目の可愛らしさがあると思います。犬や猫と異なる大きく美しい瞳と、ふんわりした毛皮やフォルムは可愛らしく魅力的です。この見た目が「嫌い」という方はほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか。
一見無表情に見えますが、実際は驚くほど感情豊かで、飼い主さんとのコミュニケーションもできます。「足ダン」で、自分の意思を表すというような賢さもあります。
都市部で飼育するペットとしては、特に鳴かない点が優れていると思います。実際、ペット不可のマンションでもウサギならばOKという物件は多く、飼っていても近隣の住民に迷惑をかけず、飼っていることすら気づかれないお宅が多いです。
また、匂いが犬猫ほどには強くないところも魅力の一つでしょう。
よく「ウサギはブームなの?」と聞かれますが、うちの病院では、特に大きく増えたという印象はなく横ばいですが、数としては結構多いと感じています。エキゾチック関連の来院の半分はウサギです。
病院で最も多いのがネザーランドドワーフ、次にホーランドロップ、そしてライオンラビットで、この3種で大部分を占めています。寿命はどの種も同じく約10年で、後述しますが、女の子の子宮関連の病気が非常に多いです。
Q ウサギの飼い主さんに向いている人とは?
A 基本的にどんな人でも、きちんと飼育管理について知識を得さえすれば、男女・年齢・家族構成に関わらずどんな人でも飼育できる動物です。家を長期間空けることがない人で、毎日のお世話ができれば大丈夫です。うちの病院ではお子さんのいらっしゃらない夫婦や、独身者の方が多いです。
犬猫ではきちんとしつけたり、うかつに手を出さないように子どもに教えなければケガをすることがありますが、ウサギであれば、優しくなでるなどはかなり小さなお子さんでも大丈夫です。
ウサギは犬猫と違って被食動物です。他の動物に食べられる動物であることから、環境の変化や、抱いたり持ち上げたりする行為が苦手です。捕獲されて食べられてしまうという本能が働くため、うかつに持ち上げると死に物狂いで逃げて、骨折という事故も起こりかねないので、元気なお子さんがいるご家庭では注意が必要かもしれません。
Q よくウサギは寂しいと死ぬと言いますが、本当ですか?
A 寂しくて死ぬというのは歌詞からきていると言われていますが、実際、私はそうしたケースに出会ったことがありません。ただ、被食動物ですから、メンタル面で神経質なところはあります。放置してはいけないという意味で、寂しいと死ぬと言われているのかもしれませんね。飼い主さんが毎日世話をして、きちんと飼育していれば、普通に長生きしてくれます。
逆に心配で、四六時中ウサギの状態をチェックするのはNG。休まる時間が無く、ストレスで健康にダメージを与えることもあります。
飼い方や飼育管理面での獣医さんからのアドバイス
Q ウサギの飼育に必要なものを教えてください。
A 揃えようと思えばいろいろありますが、絶対に必要なのがエサ、ケージ、水入れ、トイレです。冬場はヒーターや保温気が必要です。飲み水は「どれぐらい飲んでいるか」を飼い主さんが見てわかるものが絶対におすすめです。病気の早期発見につながります。
犬猫と違ってオモチャは不要でしょう。後で詳しく説明しますが、ウサギのかじるオモチャは、歯の健康に影響するので、おすすめしません。
ケージの床は直接金属に触れないよう、弾力のあるものを敷いてください。足の裏は足底皮膚炎や、ケガから感染症を引き起こすことがとても多いので、牧草を敷いたり、バスマットのように汚れてもすぐに洗える柔らかなマットを敷きましょう。
ウサギ飼育では牧草が必須
Q 餌についての注意点は?
A 飼育上、絶対必要なエサについてですが、ペレットと牧草の両方が必要です。どちらかしか食べない、という状況がなく、バランスよく両方食べるのが犬猫と大きく異なる点の一つでしょう。これはウサギを健康的に飼う上での基本です。
牧草にもイネ科とマメ科があります。イネ科(チモシー)はカルシウムが少なく、繊維質が多いのが特徴です。ウサギは繊維質をお腹の中で発酵させて栄養分を吸収していきます。また、繊維質が多いと、歯で噛み砕くことで自然に削れて、歯の病気の予防にもなります。
もともとウサギは膀胱の中にカルシウムを含んでいるため、食べ物にカルシウムが多く含まれると結石ができてしまいます。その点、イネ科はカルシウムの含有量が少ないので、常食して大丈夫です。一番刈りや二番刈りなど種類も多く、わからないことはかかりつけの獣医の先生に聞いてみてください。
マメ科(アルファルファ)はたんぱく質が多く、栄養価が高いという特徴があります。特に幼少期など成長時期にはおすすめの牧草です。食欲が落ちている子にもおすすめしています。ただ、残念なことに繊維質が少なくてカルシウムが多いという特徴もあります。
牧草とペレットとの比率は、重量比で1対1~2ぐらいで、牧草のほうが多く必要です。ペレットは体重の2%ぐらいでだいたい1.5~2グラムぐらい。それを朝と晩の2回に分けて与えます。
飲水と食事量
飲水の量が増えたり飲めていないことが病気のサインの一つになります。特にウサギ飼育では飲水は注意してあげてください。
また、食事に関しても同じで、毎回、食事の量には気を付けてください。食べ過ぎることはめったになく、食べなくなって食滞(消化管うっ帯)になると、最悪、数時間で命を亡くしてしまいます。
食滞は何かしらの原因によりお腹の動きが悪くなってしまったり、お腹の中でガスが発生して食べなくなる病気でウサギにとても多く、致命傷になる可能性もあるので、早めにかかりつけの病院で受診してください。
便の状態もよく見ておきましょう。コロコロしていれば大丈夫ですが、変わった便をするような時は命を落とす危険もあります。
ウサギは盲腸便を出し、それを食べる習性があります。いったん体外に出して、再度、栄養素として再利用するのですが、それが食べられなくなって残っていたり、緩くて食べられない時は、病気のサインかもしれないので、すぐにかかりつけの動物病院へ。
その他、注意すべき飼育環境としては、日光のあたる部屋で飼育する場合は日陰もつくるなど、隠れる場所をつくってあげること。急に大きな音が響くような環境は不適切です。物音やちょっとした変化に敏感な性質を持っています。
飼育環境の適温は18~24度ぐらい、夏場など27度以上になる時はクーラーを使用してください。冬場は寒すぎると消化管に影響が出て、食べられなくなることが多いので、低温度も要注意です。湿度は40~60%ぐらいが最適です。
Q ウサギの健康維持に重要な「うさんぽ」とは?
A うさんぽとは、時々ケージから出して部屋の安全な場所を歩いてもらう、散歩のことです。犬猫のように外出する必要はありませんが、部屋の中のコードをかじって火傷などのケガを負ってしまうことがあるので、目を離さないようにしましょう。
健康維持のためにも、うさんぽはぜひ、やって欲しいことの一つです。筋力や心臓の働きを上手にサポートすることにもなり、また、消化管の動きをキープできます。実際、運動不足で食滞を起こすことも多いので、うさんぽは病気の予防としても必須です。
Q 繁殖力の強いウサギの避妊・去勢について教えてください。
A 繁殖をご希望されているのであれば止めませんが、そうでなければ避妊手術は受けたほうが良いでしょう。心臓や肝臓などが悪くて麻酔できないケースは別ですが、病気の予防としても、避妊手術を受けないと子宮の病気に罹りやすくなります。これはもう、ほぼみんなに該当する、と言ってもいいほどです。避妊していない3歳の女の子で半数が子宮の病気になり、5歳以上だと7~8割、ほぼ全員が何かしらの子宮の病気を抱えることになります。ハリネズミにも多い病気です。
病気になってからの治療はリスクが多く、費用も高くなるので、避妊手術は推奨しています。子宮癌、腫瘍など、命にかかわる病気を防ぐことにもつながります。
男の子の去勢も、女の子と一緒にいる機会があればぜひ受けてほしいです。攻撃性があるウサギの場合、性衝動や攻撃性が抑えられることもあります。尿を振りかけるスプレー行動もやらなくなることも。女の子よりも比較的短時間で済む手術となります。
ウサギに多い病気・ケガ
Q ウサギに多い病気やケガとその予防について教えてください。
A ウサギは歯の病気が多いです。チモシーなど牧草を食べていると基本的に防げるものです。とはいえ、生まれつきの顎の作りや病気などの影響などにより、歯を削る必要があるケースも多いです。
ウサギにオモチャがダメなのは歯の根っこの角度が変化してしまうことがあるからです。牧草は均等に力が働きますが、オモチャだと歯へかかる力が均等でなく、片側だけ伸びたり欠けたりしてしまうのです。
他にも、鼻涙管の異常で目から涙が出てしまう病気も多いです。特に歯を悪くすると歯の根が腫れることで鼻涙管を圧迫して目から鼻に抜ける涙が目に逆流して出てしまいます。ひどいと膿が出ることもあります。
予防は歯を悪くしないようにすること。温かいおしぼりを作ってそれを目に当てると、脂分が解けて症状が緩和することもありますが、動物病院にお任せしたほうが安全です。
また、前述した通り、消化管の病気も多くみられます。状態が急変することがあったり、長期化することもありますので油断は禁物です。
飼い主さんの直感で病気がわかることも
また、いつも元気なのに、隅でジーっとして動かなかったり、毛並みが悪く感じられた時もすぐに病院へ。初期の段階だと、点滴や注射をして消化管を動かすことですぐに治ることが多いですが、状態がひどくお腹がパンパンに腫れてしまっている時は手術をしたり、針を刺してガスを抜く処置などを行います。
どれも飼い主さんが定期的にスキンシップをして、異常かどうか確かめることで早めの治療が可能です。うちの病院では「今日は表情が悪いんです」と言われて来院される方も多いです。飼い主さんならではの感覚で異常を察知した場合のほか、定期的に健診を受けるのも良いでしょう。来院される時は、移動で体温を奪われないよう、温かくして連れてきてくださいね。
高田馬場動物病院 by アニホック
エキゾチックアニマル専門獣医師
美山幸輝(みやま こうき)先生
取材・文/柿川鮎子 明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。