際限なく私を愛してくれる人が欲しい

桂子さんはマッチングアプリを使わずに、自力で若い男性と出会っている。それは、「際限なく自分を愛してくれる相手」が欲しいから。

「理学療法士、ダンスの先生、カフェでバイトしている大学院生、本屋さんの店員さんなどこの7年間に何人も変わりました。プロポーズされたこともあったみたいです。桂子はブライダルエステに通ったりしてウキウキしていたのに、フラれてしまった。あのときは気の毒なくらい落ち込んでいました」

げっそりと痩せたことも驚いたが、仕事以外に動く気力がなく、定期的に通っている美容の注射にも行かなかった。

「皮膚の下に注射で何かを入れて、しわのないツヤツヤの肌を保っているんですよね。おそらく、数年は持つんでしょうけれど、失恋と注射のタイミングが重なったんでしょう、顔がしぼみ、顔一面にちりめんじわができていた。あれには驚きました。オバサンではなくオバ“ア”サンになっていましたから」

ショッキングな出来事から回復するには“時間がくすり”と言うが、今、桂子さんは失恋から立ち直って、次の恋人といい感じだという。

「それが、保険会社に勤務している男なんです。桂子と私は同じ時期に定年を迎えて、それなりに退職金も入って、今はちょっとウハウハなんです。私たちは子供がいないから、数千万円かかると言われる養育費や教育費はゼロ。それを狙っているんだと思うんです」

桂子さんは61歳、相手の男性は39歳だという。彼は独身で文学や絵画に詳しい“いい人”だという。桂子さんにせっせと保険の契約をさせているのではないかと気をもんでいる。

「私、桂子と老後を一緒に過ごしたいのかもしれない。20代の頃に会社の編み物サークルで知り合い、ここまで付き合いが続くってすごいこと。だから、幸せになってほしいんです。私にとって幸せとは、穏やかに安心して暮らすこと。老いを受け入れ合い、助け合って生きていく。その相手は私にとって桂子しかいない」

異性のような恋愛感情を伴った肉体的接触はない。相互に補完し合える関係がいいのだという。

「フランスのマクロン大統領の妻・ブリジットさんは夫より24歳年上です。彼女をお手本にしているみたいですけれどね。でも絶対にうまくいかないと思う」

そこで、礼子さんは京都にある縁切寺社を回った。そして、桂子さんの家に行くたびに、そこでいただいた護符や白砂などを置いているという。

その効力を実感するのが先か、桂子さんが結婚するのが早いか、はたまた、不幸な事態になってしまうのか……それは誰にもわからない。

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。

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