日本の伝統的な生活道具、工芸品の取材・執筆に40年以上携わり、漆器を中心とした生活道具を扱うギャラリー「スペースたかもり」を運営する高森寛子さん。そんな高森さんが年齢に合った暮らし方や、美しく使い勝手のよい生活道具について伝えている著書『85歳現役、暮らしの中心は台所 生活道具の使い手として考えた、老いた身にちょうどいい生き方と道具たち』から、85歳の「買い物術」と「冷凍保存法」をご紹介します。
文/高森寛子 写真/長谷川潤
冷蔵庫に“ 料理予備軍”があると便利
仕事が今より忙しかったときは、休日にまとめて常備菜をつくっていた。
働くことをペースダウンしている今は、同じつくり置きでも、「料理のもと」になるものに代わっている。たとえば、ある日の冷蔵庫には下のようなもの。
冷蔵庫を開けて、その日の組み合わせを考える。あらかじめ塩もみしたきゅうりは蒸したじゃがいもと合わせてポテトサラダに入ることもあれば、戻した干しわかめと共に酢の物にすることも。できるのは普通の家庭料理だが、ちょっと手を動かすだけでつくり立てが食べられるのはうれしい。
仕込みをする日は特に決めていない。冷蔵庫に琺瑯の保存容器の数が少なくなってきたら、「そろそろやらねば」の合図だ。
野菜を蒸すのは圧力鍋。きゅうり、にんじんを切るのは包丁で。スライサーを使えばラクかもしれないが、まだ手が動かせるうちは便利なものに頼らずにいたい。手で切れば、好みの厚さにも調節できる。これも私にとっては大事なことだ。
夕食後、洗い物を終えたら一気に作業にかかる。やる気が起こった日は、力の出し惜しみはしない。やり終えたときの心地よい疲れが大好きなのである。
働く85歳の買いもの術
これ、と決めたものは、定期的に取り寄せる。毎日のように口にするものが足りないと不安だから。
上の写真が主なものだが、お米も宅配。有り難いご縁で長いことおいしいものに恵まれている。さらに、ここにきて思い掛けないことから2件の宅配が加わった。
石川・輪島の能登太左ェ門の『ひゃくまん穀』と、兵庫・ヨリタ農園の『いのちの壱』だ。前者は粒が大きく、冷めても固くならないのでおにぎりに最適。後者は洗米後すぐ炊いてよいということで、慌ただしいときに助けられている。
システマティックな冷凍保存
仕事が立て込むと、自宅と仕事場の往復だけ。1週間以上買い物に行けないこともある。生鮮食品と調味料(小瓶で鮮度よく使い切りたい)は近くのスーパー・マーケットで買い求めるが、それ以外は冷凍品の取り寄せや冷凍保存に頼っている。
少量・小分けの冷凍品は解凍にも手間がかからず、残りの数も把握しやすい。自分で冷凍する場合も1枚ずつ(食パンや油揚げなど)もしくは一定の容量(味噌やバターなど)に分けて保存する。この作業を手間に感じなくもないが、買い足すタイミングが明確なので私には都合がいい。
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『85歳現役、暮らしの中心は台所 生活道具の使い手として考えた、老いた身にちょうどいい生き方と道具たち』
髙森寛子 著
小学館
髙森寛子(たかもり・ひろこ)
エッセイスト。ギャラリー「スペースたかもり」主宰。漆の日常食器を主体に年に5〜6回の企画展を開催している。婦人雑誌の編集者を経て、使い手の立場で、日本にあるさまざまな生活動具のつくり手と使い手をつなごうと、数々の試みを行ってきた。雑誌や新聞に生活工芸品についての原稿を執筆、展覧会などもプロデュース。著書に『美しい日本の道具たち』(晶文社)、『心地いい日本の道具』(亜記書房)、『漆の器それぞれ』(バジリコ)などがある。