学生時代に「選手」だったというママ友

夫は定年後に社交ダンス教室に通い始めた。万事において“凝り性”の夫は、大会に出場するために本格的にレッスンを始める。

「コロナ禍でも自宅で練習したり、ストレッチを欠かさず行ったりしていました。今までにハマったスキーやゴルフとは異なり、タイムやスコアだけでなく“表現”をすることが楽しいみたいですね。あっという間に上達して、先生に“競技会を目指して練習したらどう?”と言われたみたいです」

社交ダンスの競技会は地方ごとに行われ、シニアクラスもあるという。アマチュアでしっかりとレッスンを重ねた人だけが出場できる。美津さんの夫は先生から「筋がいい」と言われ、ダンスを始めて1年足らずで、ペア(固定のダンス相手)と練習したらどうかと勧められたという。

「シニアの社交ダンスといえば、“踊活(とうかつ)”などと言われ、健康や美容目的に行う人がほとんど。夫はそれに物足りなさを感じるようになったそうです。とはいえ、50代以上で特定のダンスパートナーを見つけることは難しい。40代のプロダンサーの先生にはダンス的に夫のレベルに見合う紹介相手もいない。そこで夫は“美津、ダンスをやってみない?”と誘ってきたのですが、私は体を動かすのが大嫌い」

ペア探しが難航している話を、30年来のママ友である好子さんにしたところ、「私、出産前まで社交ダンスをやっていたんだよね。選手だったんだよ。懐かしい」と言った。そして、夫に紹介したところ、好子さんとダンスのペアになることが決まった。

美津さんと好子さんは約30年前に産院で知り合った。偶然同じ高校を卒業していることで意気投合し、育児の悩み、学校のことなどを話し合っていた。

「好子さんは、20年前に暴力をふるう夫と離婚しています。その時に私の家でお嬢さんとともに数日間かくまったことがあるんです。妹のようでもあり、時には姉のようでもあり、私にとって大切なお友達なんです」

【ダンスを通じて、夫と好子さんの距離は縮まっていき……その2に続きます】

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。

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