取材・文/沢木文
「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
美津さん(仮名・62歳)は、30年来のママ友・好子さん(仮名・59歳)と夫が社交ダンスのペアになり、その関係にさみしさを覚えたが、その後事態は大きく変わったという。
定年後に夫が突如始めた社交ダンス
商社マンだった美津さんの夫(67歳)は、65歳の定年後に突如として社交ダンスを始めたという。
「もともとスポーツマンでスキー、オフロードのレースなど、スピード系のスポーツにハマっていたんですよね。でも年齢を重ねて動体視力も弱くなり、万一転倒したら大けがをするリスクを気にするようになったんだと思います。もともとやっていたゴルフに加えて、社交ダンス教室に通い始めたときはびっくりしました」
夫は硬派で通っていた。女性には目もくれず、仕事に邁進し続けた。結婚35年間、夫を尊敬しており、夫も美津さんを大切にしてくれた。浮気などもしたことがないと確信している。
「浮気をする余裕はなかったと思うんです。海外勤務や出張なども多かったですしね。恋愛結婚で、子供も2人(33歳男、31歳女)授かっていますが、未だにお互いを名前で呼び合い、一緒のベッドで寝ていますよ。夫のことは男として好きなんです」
第一子を出産するときから、専業主婦になり今に至る。
「私、仕事がそんなに好きじゃないんです。だって、朝電車に乗って会社に行って、仕事をするなんて無理でした。それに、専業主婦も悪くないんですよ。ママ友もたくさんできますし、地域の活動も楽しいですしね」
2年前に結婚した娘から「ママの時代はいいな~。専業主婦になるのが普通で」と言われるという。
「娘たちも本音は“専業主婦になりたい”と言っています。仕事も大変みたいですね。近くに住む娘の家に、掃除や洗濯の手伝いに行っていますもん。娘には“私が若いうちなら、いくらでも孫の面倒を見るから、さっさと子供を産みなさい”と伝えているのですが、婿殿も娘も忙しくてそれどころじゃないみたい。上のお兄ちゃんには子供もいるけれど、お嫁ちゃんの実家が付きっ切りで面倒見ていますしね」
幸せを絵に描いたような美津さんの家庭に暗雲が立ち込めたのは、夫が始めた社交ダンスだった。
【ママ友が“ペア”になっており、夫と親密になっていった……次のページに続きます】