亡くなった方の財産は相続税の申告・納付が必要ですが、「基礎控除」によって限度額まで非課税とされます。個別の金額は家族構成に応じて変動するものの、計算方法はとても簡単。今すぐ自分で相続税の基礎控除がいくらあるか調べ、資産状況と比較するのは、そう難しいことではありません。
そこで今回は、相続の生前対策を行う日本クレアス税理士法人の税理士 中川義敬が、最低限知っておきたい基礎控除の考え方、所得税の確定申告との違い、相続登記などについて注意点を交えながらお話ししたいと思います。
目次
相続税は確定申告が必要?
相続税の申告はどのような場合必要か? 期限は?
申告が不要な場合は、何もしなくてもいい?
まとめ
相続税は確定申告が必要?
相続税は、被相続人の財産を相続した場合に、その相続した人に課される税金です。その財産の額の合計額が、基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超えるときに申告が必要になります。財産が親から子等へ移転するだけなのに、なぜ課税されるのかということについては、様々な考え方があるでしょう。代表的な考え方としては次のようなものです。
(1)被相続人が生前において受けた社会及び経済上の要請に基づく税制上の特典、その他による負担の軽減などにより蓄積した財産を相続開始の時点で精算する、いわば所得税の補完。
(2)相続により相続人等が得た偶然の富の増加に対し、その一部を税として徴収する。それにより相続した者としなかった者との間の財産保有状況の均衡を図り、併せて富の過度の集中を抑制する。
※「税大講本 相続税法(基礎編)令和3年度版」参照
相続によって財産を取得したとしても、それは所得税法上の所得にはなりません。したがって、所得税の確定申告は不要。必要な申告は相続税申告になります(この相続税の申告は確定申告とは言わず、一般的には相続税申告という表現になります)。
ただし、確定申告をしなければならない人が年の中途で死亡した場合には、相続人が、その死亡した年の1月1日から死亡した日までに確定した所得金額及び税額を計算し、死亡したことを知った日の翌日から4か月以内に申告と納税をしなければなりません。これを準確定申告と言います。
相続税の申告はどのような場合必要か? 期限は?
上記の通り、相続税は財産額の合計が基礎控除額を超えるときに申告が必要になります。相続税の計算の際、「配偶者控除」や「小規模宅地等の特例」などの適用により、最終的に税金がかからない場合でも申告は必要となります。とはいえ、税金に長けてない方が申告の要否を判定することには不安を伴うでしょう。
国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」を使用すれば、簡易的に判定をすることができます。(https://www.keisan.nta.go.jp/sozoku/yohihantei/top#bsctrl)
また申告書作成には「相続時の申告のためのチェックシート」などを用いるのも良いでしょう。(https://www.nta.go.jp/about/organization/nagoya/topics/checksheet/index.htm)
しかし、専門的な知識や経験を要するため、通常は相続税の申告書の作成は非常に難しくなることが多いでしょう。費用はかかりますが、税理士などの専門家に相談するのがお勧めです。申告の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日から10か月以内となります。
例えば、被相続人が亡くなったことを1月6日に知った場合には、その年の11月6日が申告期限となります。申告期限までに申告をしなかった場合は、本来の税金のほかに加算税や延滞税がかかる場合も。相続税の納税も、この申告期限までに行うことになっています。
申告が不要な場合は、何もしなくてもいい?
相続税申告書の提出が必要かどうかは、誰でも使える非課税枠である「基礎控除」が判断の元になります。被相続人の財産の価額が基礎控除額を上回っているのであれば、申告書を作成して提出しなければならないことは、既に申し上げました。ここでいう「被相続人の財産」(=課税価格)には、直近の生前贈与まで含まれますが、遺された借金やお葬式の費用は除外されます。
したがって、被相続人の財産の価額が基礎控除額を下回っておれば、相続税の申告は必要ないということになります。しかし、土地や建物など不動産の相続がある場合には、相続登記をしなければならないことには注意が必要です。相続登記とは、土地や建物などの不動産の所有者が亡くなったときに、その方の持ち分が相続人へ移ったことを証するため、名義を変更することをいいます。
これまでは相続登記は義務ではなかったため、多くの方が相続登記を行わなかった結果、所有者不明の土地・建物が増え続けており問題となっています。国土交通省の調査によると、日本全国に存在する所有者不明土地の総面積は410万ヘクタールに相当されます。これは九州の面積地を上回る面積です。
さらに深刻なケースとしては、数代に渡って相続登記がされていない場合、仮に被相続人となる方が不動産の持分を有していたとしても、登記簿謄本で持分を確認することができず、そもそも持分を有していたかどうかわかりません。そうなると正しい相続ができなくなり、後々の相続税申告にも影響を及ぼしてしまいます。
このように国や自治体のみならず、個人の方々にも悪影響が広まってしまい、経済や国土維持などの方面にも影響が危惧されているのが現状です。そのため、相続登記の義務化が2021年2月10日に決定され、政府は2024年までに施行する方針を示しています。
まとめ
本記事では、あくまでも最低限得たい知識として基礎控除や申告要件、相続登記についてご紹介しました。実際に相続税対策をしなければならないようなケースでは、他の税額控除や税額の軽減に関する制度、そして資産と相続の状況に応じて適用できる各種特例等について、全般的に知識を網羅しておく必要があります。
一人ひとりの課税額や適用できる制度については、知識・経験共に豊富な税理士に診断してもらうのがよいでしょう。
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・http://kyotomedialine.com)
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)