「コロナが終わったら」の言い訳が通用しない

空気を読む寿美子さんは、劇のDVD鑑賞会で「ステキね」「また観たい」などと心にもないことを繰り返し、心からその劇団を愛するSさんは、しきりに観劇に誘い、時にはチケット代をオゴってくれることもあった。

「Sさんは同世代であり、彼女も“嫁奉公”で苦労していた。Sさんに“あなたの人柄が好きなの”と言われたときはうれしかったですね。観劇の誘いは、私によかれと思い、彼女なりにムリをしてくれていたんです」

しかし、寿美子さんはハマれない。

「観れば観るほどピンとこないというか……悪役さえも美しすぎて私が恥ずかしくなってしまうんですよ。音楽は生オーケストラで、何もかもが豪華なのに、私だけ場違い。そういう舞台を楽しむ教養が私にないだけなのですが、Sさんが解説してくれるたびに、申し訳ない気持ちになっていました」

かつては「コロナが怖いから」とか「コロナが終わったら」などの言い訳が通用したが、今はそうはいかない。しかし、その猛烈な攻勢がぱったり止まる日が来た。

「ある日、突然Sさんからの誘いがなくなったんです。“これ幸い”と自宅でのんびりしていたら、Sさんと取り巻きの2人がウチに“話があります”と来たんです。それは、私のInstagram(写真SNS)の投稿を即刻削除せよというもの。私は2年ほど前から、老化防止の意味もあり、Instagramを始めていたんです。フォロワーは30人未満で、夫、息子、娘、甥、姪、実家のきょうだい、親戚、同級生ほか友達だけです」

そのInstagramには、旅行、ハンドメイド、観劇についてアップしていた。

「娘が“ハッシュタグや位置情報をつけるとママのインスタをいろんな人が見ちゃうからやらないほうがいいよ”と言ったので、広がることはありませんでした。それなのにSさんは私のインスタをチェックしていた。そこで、問題になったのは、私がアップしたチケットケース。それはSさんから頂いたもので、役者さんのメッセージとサインが入っていたんです」

Sさんは「こんな貴重なものをSNSにアップするなんて信じられない! ○○ちゃん(役者さん)の看板に傷がついたらどう責任を取るのか!」とすさまじい剣幕だったという。

「もちろん、すぐにその投稿は削除し、Instagramも公開制限をかけました。でも、その後、いつも気軽に話していたご近所さんからは距離を置かれ、回覧板さえもスルーされるように。明らかに無視されているのがわかると、私の気持ちも滅入ってくるというか……。私だけが悪いのならいいのですが、私の軽率な行動のせいで、Sさんや役者さんに迷惑がかかったと思うといたたまれない。最初の段階で“きれいだけどハマれない”と言えばよかったと後悔しています」

寿美子さんは、夫に相談すれば「そんなバカバカしい。たいしたことない」とか「僕がSさんに話して、和解金などの話をしようか」などと言いだすに違いないと思っている。 「女の友達関係は、そういう短絡的なところではないからややこしいんです。嫉妬やマウンティングなどいろんな感情が絡んでいる。Sさんも表面上は華やかに見えますが内情は大変らしいです。そういうことのハラスメントになったのかな……」とも思っているという。

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。

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