コロナ禍が息子夫婦の運命を変えた
息子夫婦の関係が良好だったのは、顔を合わせなかったから。エンジニアの息子の帰宅時間は遅く出張も多かった。嫁は近所のスナックでアルバイトをしており、朝は寝ている。連れ子は部活に忙しい。しかし、コロナ禍で会社もリモートワークになり、嫁はスナックが休業し、連れ子の部活はなくなり、3人が家で顔を合わせるようになった。
「すると、息子は嫁に支配されちゃったんでしょうね。マインドコントロールっていうの? 今まで貯金していたお金を全部嫁に渡してしまったらしいんです。“なんで渡したのか”と聞くと、“わからない”と泣いている。おそらく息子は恫喝されると萎縮するようなところがある。それで言いなりになにもかもを渡してしまったんでしょう。ホントにあの女は許せない」
そして半年前に、嫁は家から出て行った。そのことを息子が里子さんに告白したのは1か月前。どうにもこうにもならなくなり、相談してきたのだという。
「まず、お金を20万円貸してほしいと言われたんです。嫁がクレジットカードで買い物した分の支払いだそうです。このときに息子にはもう貯えがないことを知りました。夫と2人で息子のお金周りの契約を確認し、家族カードを止めた。夫は元銀行員だから、こういう時は頼りになります」
他にもいろんなことを聞き出すと、前から男の気配はあったという。連れ子も黙っておいていったのではなく、意思を確認した。連れ子も生みの母親よりも「パパがいい」と残った。
「どんな扱いを受けていたかがわかりますよね。普通、血がつながらない父のことなんて選びませんよ。婚姻状況を確認すると、嫁は自ら出て行ったのに、離婚はしなかった。しかも、誰に入れ知恵されたのか、婚姻費用の請求もしてきて、息子はそれを払おうとしているんです。これは危なっかしいと、住んでいたマンションを引き払い、ひとまずウチに引っ越させました」
息子と連れ子は嫁からモラハラ的な支配をされていた。
「息子はコロナ禍のリモートワーク時に嫁からモラハラを受けて、心を病んで一時期休職していたそうです。ウチに来て2週間目あたりから、様子を見ながら出社していますが、この先どうなることやら。このまま息子が復職してくれればいいけれど、働けなくなることも考えると恐ろしい。。2人が家にいるから掃除や洗濯の負担、食費がのしかかってきて大変。男が3人いても何の役にも立たないんですよ。話し相手にすらならない。友達に話そうにも、恥ずかしいし言えませんよ。それに“あら、自慢の息子さんも地に落ちたわね”なんて言われたらカチンとくるし。今になって夫が“もうひとり子供がいたらどうだったのかな”なんて言い出して、気持ちの持って行き場もない。家にいるとクサクサするから、お弁当製造のパートを始めたんです。そこに行っている時だけが、息抜きですね」
支配的な育児、世間体優先、会社に滅私奉公、子供に対して無責任な親、虐待、モラハラ、心の病、女性の家事育児負担に集中すること……これらの現代社会に潜む問題は、見て見ぬふりもできる。歪みを抱えながらも、ギリギリでバランスを保っている積み木は、ある時に一気に崩れていく。そのときに、どのように対処するかが、問われるのではないだろうか。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。