「遺言信託」という言葉を聞いたことはあるでしょうか? あまり耳慣れない言葉ですが、専門家が遺言内容の作成から実行までサポートするサービスの総称です。遺言信託は、安心感を得られる一方で、費用や柔軟性の面で注意点もあります。今回は、遺言信託の仕組みやメリット・デメリット、他制度との違いなどについて見ていきましょう。

100歳社会を笑顔で過ごすためのライフプラン、LIFEBOOK(R)を提唱する、独立系ファイナンシャルプランナー藤原未来がわかりやすく解説します。

遺言信託とは? 基本の仕組みと目的

遺言信託とは、遺言に関する手続きを金融機関や専門家に任せられるサービスです。イメージとしては、「遺言を書くだけ」で終わらせず、その作成から保管、そして実際に執行されるところまで、専門家が一貫してサポートしてくれる仕組みです。

相続では財産の分け方をめぐって感情的な対立が起きやすいため、第三者である専門家が入ることで、公平さと確実な実行の信頼度が高まります。

遺言信託の定義と機能

遺言信託とは、信託銀行などが提供するサービスのことで、

・遺言書の作成支援
・遺言の保管
・遺言の執行

を一括して担う内容となっています。依頼者は、遺言内容を専門家と相談しながら作成し、それを金融機関に保管。遺言者本人が亡くなった後は、信託銀行などが遺言執行者として相続手続きを行ないます。これにより、相続人同士の負担を軽減し、スムーズに遺産分割が進められるのです。

一般的な遺言書作成との違いは?

一般的な遺言書は「自分で書いて残すだけ」ですが、遺言信託は「作成から実行までを専門家に任せられる」仕組みです。そのため、手間やリスクを大幅に減らすことができます。

また、遺言信託では「公正証書遺言」として作成することが多く、自筆証書遺言を自宅で保管している場合に必要な家庭裁判所での「検認」の手続きを省くことができ、スムーズに相続手続きを進められます。

誰のために役立つ制度なのか

遺言信託は、

・相続人が遠方に住んでいる
・相続財産が多岐にわたり複雑
・相続人同士の関係が不仲

といったケースで特に役に立ちます。遺言者本人だけでなく、残された家族の負担を減らす意味でも有効でしょう。

遺言信託を使うとどうなる? 主なメリットと注意点

遺言信託は「安心して財産を託せる仕組み」として利用されています。しかし、すべての人に万能というわけではありません。

安心して相続・遺産を託せる仕組み

信託銀行や弁護士が間に入ることで、遺言の内容が確実に実行されます。遺言信託では、専門知識を持った中立的な専門家が必ず執行者となるため、相続人が執行者になる場合に比べて「不公平だ」「勝手に処理された」といった不満が出にくくなります。

相続トラブルの回避

相続争いの多くは、「財産の分け方に不満がある」「手続きが遅い」といった不信感が原因です。遺言信託を利用すれば、財産の分け方や受け取り方をあらかじめ明確にし、さらに迅速に実行できるため、トラブルを未然に防ぐ効果が期待できます。

デメリット・費用の負担・柔軟性の限界

遺言信託の最大のデメリットは、高額な費用がかかる点です。遺言信託には主に以下の図表のような費用がかかります。

<図表1>遺言信託にかかる主な費用

(株式会社SMILELIFE projectにて作成)

また、一度契約すると内容変更の自由度が限られることがあります。遺言信託では、一度内容を決めて契約すると、信託財産として専門家が管理するため、簡単には変更できません。変更する場合は手続きや追加費用が必要になることがあります。

他の信託制度と何が違う? 遺言信託の立ち位置を理解する

遺言信託は「信託」という名前がついていますが、他の信託制度とは役割や目的が異なります。

家族信託との違い

家族信託は、生前に家族へ財産の管理を任せる仕組みです。認知症対策や事業承継に使われることが多く、委託者(信託する人)が生きている間から効果を発揮します。一方、遺言信託は死亡後に効力を持つため、利用するタイミングが大きく異なります。

また、家族信託は委託者自身のために財産を使うことを目的とするのに対し、遺言信託は相続人に財産を渡すことが目的です。言葉は似ていますが、目的や使い方が大きく違う点に注意が必要です。

遺言代用信託との違いと併用可否

遺言代用信託は、生前に信託契約を結んで「死亡したら財産を移転する」という仕組みです。例えば「自分が亡くなったら預金を子へ渡す」といった指定が可能です。遺言信託と似ていますが、遺言代用信託は遺言書を必要とせず、契約だけで効力が発生します。

<図表2>遺言信託と遺言代用信託との違い

(株式会社SMILELIFE projectにて作成)

両者を併用するケースもあり、財産の種類や意向に応じて選び分けることが重要です。

遺言信託は「誰に必要」なのか? 適したケースと不向きな人

遺言信託は誰にでも有効というわけではなく、状況によって向き不向きがあります。ここでは代表的なケースを紹介します。

独身・子どもがいない場合(向いている人)

相続人が兄弟姉妹や甥姪になると、相続手続きが複雑になりやすい傾向があります。遺言信託を利用すれば、専門家が手続きを代行してくれるため安心です。そのため、独身や子どもがいない人には特に向いています。

相続人同士が不仲な場合(条件付きで向いている人)

遺産分割協議がスムーズに進まない恐れがある場合、遺言信託であらかじめ財産分配のルールを決めておくことで、無用な争いを避けやすくなります。ただし、相続人が極端に不仲で連絡が取れない場合などは、遺言信託だけでは完全にトラブルを防げません。このような場合は、執行者に十分な権限を持たせるなどの工夫が必要です。

節税目的(向いていない人)

遺言信託は節税対策には直結しません。相続税の軽減策は別途、生前贈与や生命保険などの活用が必要です。遺言信託の目的はあくまで「円滑な手続きとトラブル防止」であることを理解しておきましょう。

トラブルや後悔を防ぐためのポイントとは?

遺言信託は便利な制度ですが、誤解や過度な期待があってはなりません。

よくある誤解・トラブル事例

遺言信託は便利な制度ですが、誤解や過度な期待からトラブルが生じることも少なくありません。たとえば、

・「すべてお任せできる」と思っていたが、遺産の一部は対象外だった
(例:銀行預金や株式は信託していたが、自宅の不動産や車は含まれておらず、別途手続きが必要になった)
・費用が予想以上に高額になった
・相続人が遺言内容に納得せず、結局争いに発展した

こうした事例を防ぐためには、次のポイントが重要です。

1.信託対象となる財産を事前に確認する
信託する財産の範囲を明確にして、漏れや誤解がないようにします。

2.費用の見積もりを把握する
遺言書作成料・保管料・執行手数料など、すべてのコストを事前に確認しておくことが大切です。

3.相続人への説明や通知を行なう
事前に家族や相続人に信託の内容を伝えることで、後の誤解や不満を減らせます。

4.専門家に相談する
信託銀行や弁護士と相談し、手続きや契約内容を正しく理解することで、トラブルのリスクをさらに低減できます。

解約・変更はできる?

契約後も生前であれば解約や変更は可能です。ただし、手続きが煩雑だったり、追加費用が発生したりするケースもあるため、事前に確認が必要です。

信託銀行や弁護士に依頼する際の注意点

以下に依頼時の注意点を列挙します。

・費用体系を明確に確認する
・どこまで業務範囲に含まれるのかを把握する
・相続人にも説明し、理解を得ておく

これらを怠ると、後悔や不満につながる可能性があります。

まとめ

遺言信託は、相続における「安心の仕組み」を提供する一方で、費用や柔軟性の制約があります。他の制度との違いを理解し、自分や家族にとって本当に必要かどうかを見極めることが大切です。

最終的には、信託銀行や弁護士など専門家に相談し、自分の家族に合った形を選ぶことが、相続トラブルを防ぎ、安心して大切な財産を託すための第一歩となるでしょう。

さまざまな金融商品が出回っている世の中だけに、あなたの味方になって守ってくれる相談相手を持つことが必要な時代になっています。ご自身のライフプランを考える時には、生命保険や金融商品の販売をせずに中立的な立場からコンサルティングに徹する独立系のファイナンシャルプランナーへの相談をお勧めします。

●構成・編集/京都メディアライン(HP:https://kyotomedialine.com FB:https://www.facebook.com/kyotomedialine/

●取材協力/藤原未来(ふじわらみき)

株式会社SMILELIFE project 代表取締役、1級ファイナンシャルプランニング技能士。2017年9月株式会社SMILELIFE projectを設立。100歳社会の到来を前提とした個人向けトータルライフプランニングサービス「LIFEBOOK®サービス」をスタート。米国モデルをベースとした最先端のFPノウハウとアドバイザートレーニングプログラムを用い、金融・保険商品を販売しないコンサルティングフィーに特化した独立フランチャイズアドバイザー制度を確立することにより、「日本人の新しい働き方、新しい生き方」をプロデュースすることを事業の目的とする。

株式会社SMILELIFE project(https://www.smilelife-project.com

 

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