遺言書を書こうかどうか迷っている方も多いと思いますが、色々情報を取得したものの、結局どの書式で書くべきか、何に注意すればいいのか、判断に迷うこともたくさんあると思います。そのような方のために、信託銀行等が提供している「遺言信託」というサービスがあるのをご存知ですか? 今回は遺言書の作成をサポートしてくれる遺言信託についてお話ししたいと思います。

目次
遺言信託とは
遺言信託のメリット・デメリット
遺言信託の流れ
まとめ

遺言信託とは

遺言信託とは、信託銀行等が遺言書作成に関して、相談から遺言書の保管、相続財産の調査や、遺産分割手続きまで、トータルでサポートを行うサービスです。

遺言信託では、原則として、公正証書遺言による作成のみ受け付けているので、ご自身が書いた自筆証書遺言や秘密証書遺言などの公正証書遺言以外の形式の遺言では、対応をしてもらえないことになります。

遺言信託のメリット・デメリット

遺言信託を活用することで、基本的に全ての手続きは信託銀行に任せることが可能になります。遺言信託のメリットとデメリットをそれぞれ見ていきましょう。

メリット

▶ワンストップで全て対応してもらえる
遺言信託をするメリットは、なんといっても遺言書作成や相続後の手続きを全て信託銀行等に任せることが出来る点でしょう。遺言書の作成をしようと思っても、何から手を付ければいいのか分からない方にとっては、相続後の遺産分割や今後の財産設計など、ご自身の立場や状況に関して相談に乗ってもらったうえで、作成を進めることができます。

相続後も、信託銀行等が遺言執行者となるので、財産の処分や名義書換などの煩わしい手続きを、相続人に代わって執り行います。残されたご家族も安心ですね。また、弁護士や税理士などといったその分野の専門家も紹介をしてくれるので、法務や税務の面でもリスクを解消した提案を受けることが可能です。

まさに信託銀行という規模のメリットを最大限に生かすことで、ワンストップでサービスを受けることができます。

資産の有効活用に関しても相談できる
遺言書を作成することを検討すると、現在所有している株式や不動産を売却、贈与することを検討する機会が生まれます。ただし、安易に実行したため、法律や税金の面で不利になり、損をしてしまうリスクがあります。信託銀行から専門家を紹介してもらえるので、資産の有効活用についても適正なアドバイスを受けることが可能です。

デメリット

▶手数料が高額である
遺言信託の最大のデメリットは、とにかく費用が高額になってしまうことです。大手信託銀行の価格表などによると、最低報酬が100~200万程度必要で、さらに財産額に応じて段階的に報酬が加算されます。また、遺言書の書き換えや毎年の保管料にも費用がかかるため、依頼する前に将来にわたりどれくらい報酬額が必要になるのか、しっかりと試算する必要があります。

▶争族になるものは引き受けてもらえない
法的紛争が発生するものは遺言執行者にならないと取り決めている銀行がほとんどなので、財産が多額にあり、かつ、相続人同士の人間関係も円滑でないと依頼することが出来ない可能性があります。

▶遺言執行の範囲が限定されている
遺言の執行で対応ができるのは、原則財産の処分に関してのみで、未成年の後見人指定や認知、相続人の廃除などの人的行為に関する執行には対応ができません。

遺言信託の活用事例

遺言信託をすることで、信託銀行等が遺言執行者になるので、相続発生後に財産の処分が円滑に進みます。このメリットにより、ご自身の財産を社会貢献に生かすことも可能です。

例えば、ご自身が生前お世話になった学校法人、国立大学法人、公益法人などに遺贈寄付を行うことで、財産の一部を寄付して恩返しをすることもできます。遺言執行者がない遺言書の場合、ご自身の思いが実行されない可能性がありますが、銀行などが執行手続きを取ってくれれば、将来の寄付手続きを確実に実現してくれるため安心です。

遺言信託の流れ

それでは、実際に遺言信託を活用する場合には、どのような流れで手続きが進んでいくのかを見ていきましょう。

【1】事前相談
信託銀行等に、遺言書を作成するにあたり、ご本人の意向や、相続人、対象となる財産について確認をしてもらい、遺言内容全般について相談をします。また、今後の生涯設計や生前贈与を含めた、いわゆる生前対策についてもアドバイスを受けることが可能です。

【2】遺言書の作成
公証役場にて公正証書遺言を作成します。作成の際に必要となる2名以上の証人についても、信託銀行等が対応をしてくれます。

【3】遺言信託の申し込み
信託銀行等の約定にしたがって、契約を取り交わします。公証役場で受領した公正証書のうち、正本を相続開始まで預けることになります。

なお、契約にあたっては、一般的に下記の資料が必要となります。
・遺言書正本
・戸籍謄本
・不動産登記事項証明書
・相続財産明細
・預貯金・有価証券 その他財産に関する資料
・印鑑証明書 等

【4】相続開始の通知と遺言執行者就任
あらかじめ届出ていた通知者から相続の事実を連絡してもらい、執行業務が開始されます。代表となる相続人と相談の上、遺言書の内容を相続人に開示して、遺言書の内容通り信託銀行等が遺言執行者に就任します。

【5】遺産の調査・財産目録の作成
遺産や債務を調査し、判明した相続財産について財産目録を作成してもらいます。また、相続人が保管している通帳や株券等の原本を預けます。

【6】遺産分割の実施
遺言書に基づいて、預貯金・有価証券等の換金、不動産等の名義変更手続きを行い、遺産分割を実施の上、遺言執行の終了をもって手続きが完了となります。

まとめ

いざ遺言書を作成しようと思っても、何から始めればいいのかわからないのが一般的でしょう。身近に信頼できる弁護士や税理士などの専門家の知り合いがいれば、その方に相談をされるといいのですが、いない場合には今回お話ししたように、信託銀行等に相談をして遺言信託を活用することもひとつの方法です。その際は、今回ご紹介したメリットとデメリットをしっかりと考慮し、より良い遺言書を作成していただきたいと思います。

構成・編集/京都メディアライン 内藤知夏(http://kyotomedialine.com

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

 

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