専門学校卒の娘の方が幸せではないか

息子の妻子は、妻の実家に身を寄せている。息子の妻は我が子の中学受験が終わると、派遣社員として働きに出た。

「息子は“母は家庭を守るものだ”と反対したらしいのですが、嫁はもうわかっていたんでしょうね。6年前のマンションの購入で貯金は尽き、“見栄”の対象になる子供の塾代は払っても、生活費はろくすっぽ払わない。嫁はいつも髪の毛をひっつめていたんですが、金がないから美容院にも行けなかったそうです」

息子が引きこもりになってから、今年、私立の女子中学校に合格した孫娘は、たった数ヶ月で学校を辞め、公立に転校した。

「授業料が払えませんからね。聞くところによると、娘は公立のほうが生き生きと楽しそうにしているそうです」

問題は、その兄の方だ。現在中学3年生の孫は猛勉強して、名門中高一貫男子校に入学した。学校を心から好きで通っているが、授業料が払えない。

「先週、孫が“おじいちゃん、あと3週間後に後期の授業料45万円の支払いがあるから僕に貸してほしい”って言いに来たんです。中学3年生の孫が目に涙を浮かべて、“必ず返します”と言ってくる。私だってお金は払いたくないですよ。あちら(嫁側)の実家とも話して、折半して支払うことにしました。高校卒業まで年間80万円近い金……といっても、私の割り当ては年間40万円ですが……を支払うのは、老人にとってきつい。あと4年もあるから」

これから息子がすべき課題は多々ある。

「まずは、退職をするかしないか。そして、高額なマンションをどうするか。2人の子供の学費、離婚するのかしないのか、その場合養育費はどう支払っていくのか……問題は山積みです」

エリートだった息子が持っているスキルは、勤務先の金融関連会社以外は通用しない。

「投資信託を売るとか、相手に金を貸すとか、そんな力はこれからの世界に求められていないような気がするんです」

求められているのは、劣等生だった娘の持つ、一緒にいる人を幸せにする力。

「先日、娘のところに行って、現状を話したら、“パパ、死んで花実が咲くものか”ってさ。お兄ちゃん死なないでよかったじゃん“って笑うんです。”難しい言葉を知っているな“と言ったら、惣菜店の常連客が大学教授だそうで、話していると勉強になるんだって。でもそれでも私の中に、娘は専門学校卒という意識がぬぐえない。絶対に娘の方が幸せであり、手がかからなかったのに、息子に肩入れしてしまう」

娘婿は、帰りがけに「お義父さん、持って行ってください」と豆の煮つけと春雨が入った中華サラダを持たせてくれたという。

「中華サラダは娘が開発した人気メニューで、午前中に売り切れてしまうことがあるそうです。家に帰って食べると、しっかりと塩辛い、亡き妻がかつてよく作ってくれた味なんですよ。私が高血圧になってから、塩分を控えめにしてくれたんですけどね。懐かしくて、不覚にも泣きそうになりましたよ」

このまま息子を家に置いておくわけにもいかない。しかし、息子に説教するわけにもいかない。

「死なれたら困るというのもありますが、自分でもどうしていいかわからない。わかっているのは、このままだと孫の教育費と、息子の養育費を、この先私の命が尽きるまでに支払うということです。まさか老後にこんな受難があるとは思ってもみませんでした」

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。

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