取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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東京都郊外に住む吉池篤子さん(仮名・72歳・無職)は、手が付けられなくなって家出した息子(40歳)が亡くなってから半年が経過した。死因が明らかに自死だったために、損害賠償請求をされてしまった。
【これまでの経緯はその1で】
事故物件になった損害賠償として、1000万円請求される
息子の葬儀は、夫と2人でひっそりと行った。
「コロナ禍でしたし、嫁にいっている娘にも、今は知らせないことにした。義母は100歳近くなり、介護施設でまだ生きているんですけれど、このことは伝えられなかった。とっくに認知症になっているので言ってもわからないとは思いますけどね」
葬儀が終わって3日ほど経過した時に、息子が借りていたマンションの大家さん側の弁護士が来た。
「息子が自分の持ち物件で自死して、事故物件になってしまった事で、損害賠償を請求してきたのです。1千万円以上の金額でした」
篤子さんは驚いて、預金額を確認しようとする。息子の問題で家族関係だけでなく、老後資金もままならない状況になっていた。夫はストレスから女性に溺れ、その後始末にお金がかかっていたのだ。
「1千万円なんて払えない……と思って、主人に言ったら、“それは払う必要がない”と。こちらも弁護士に相談したら、確かに支払う義務がないけれど、係争になる可能性もある。早期にトラブルを解決した方がいいとのこと。いろいろあり、結果的には息子が住んでいた部屋の清掃費と荷物の処分代金の200万円を支払い、解決しました。500万円しか貯金がない年金暮らしの私たちが、200万円を支払ったら手元に300万円しか残らない」
人が一人亡くなると、さまざまな問題が出てくる。特に相続の問題は重要だ。息子は借金だけで貯金はない。しかし、遺品などさまざまなものがある。目に見えないものとしては権利がある。マンションの“住む権利”の解約手続きもする必要があった。
「相続放棄のために、戸籍を取り寄せていろいろやりました。司法書士さんに頼めばよかったのですが、お金がかかるから私と主人で行ったのです。その時に、嫁に行っていた娘(45歳)のところにも息子の話がいってしまったんです。娘夫婦はもともと折り合いが悪かったらしく、その後、娘はなんだかんだと理由をつけて離婚されてしまったんです。娘はちょっと変わった子で、大学を出てからヨガの先生になって、その生徒だった年下の婿さんと5年前に結婚したところまではよかったんですけどね」
【出戻りの娘は働かず、家にお金も入れず、長風呂に入っている……。次のページに続きます】