取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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子供がいない夫婦は幼い姪に「老後助けてね」と言った
東京都八王子市に住む佐藤昌代さん(仮名・67歳・元地方公務員)は、シングルマザーの姪(25歳)に頭を抱えている。姪は19歳で女児を出産し、現在は母子で昌代さんが所有するアパートの一室に住んでいる。
「もう3年。家賃を一切払わず、出ていく気配もないんです。私たち夫婦は子供がおらず、老後資金の足しになればと、10年前に6部屋のアパート1棟を購入しました。管理会社に頼むと高いので、私と夫が所有物件に住んで管理しています。姪は隣の部屋に住んでいます。このアパートのローンはまだ残っているし、実質の稼働が5室なので、1室でも家賃収入を得たいのに、姪に居座られて困っています。まさか私たちが“老後、助けてね”と言っていた子に、老後を脅かされるとは思わなかった」
聞けば家賃は6万円。姪はシングルマザーなので払えないという。そして姪はなぜ実家に帰らないのか。
「妹夫妻と上手くいってないからです。もともと妹は、姪が10代で母になることは大反対でした。姪は“好きな人の子だからどうしても産みたい”といった。加えて中絶できるギリギリのタイミングまで妊娠に気付かなかったこともあります。それなら、別のやり方もあったと思うのに、それを押し切ってしまった」
このとき、昌代さんは「10代の子供が育児をするのは大変だ」と、特別養子縁組のことを調べた。これは事情があり産んでも育てられない子を、子供が授からない養親が“実の子”として育てる制度だ。目的は子供の福祉の増進。子供にとっての生みの親(実親)との法的な親子関係を解消し、育ての親(養親)が実の子と同じ親子関係を結ぶ。多くのマッチング団体があり、信頼できるNPO法人の代表に相談したこともあった。
「でも、姪は自分で育てたいという。私は姪を助けたい一心で突っ走った。子供がいないから気持ちがわからない自分を恥じたんですよ」
妹夫妻は姪に怒鳴ったり、手を上げたりして「堕ろせ!」の一点張り。
「叩かれて顔が真っ赤に腫れた姪が“おばちゃん、助けて”と来たときに、妹夫妻との間に立ってしまった。妹は2回離婚し、3回目の結婚をしたばかり。妹はキレると手が付けられなくなる人で、姪がとにかく可哀想だった。でも、産んでみると赤ちゃんはかわいいらしく、妹も認めた。姪は、最初は実家で育てていたのですが、親に生活を管理されるのが嫌だったのか、ウチに転がり込んできた」
姪は当時22歳で、まだ幼い表情が残っている。「他の子が大学生として人生を謳歌しているのに、この子はひとりで子供を育てている」、そう思うと手を差し伸べずにはいられなかった。
【「助け合い」の精神が、共倒れを招くことにも……。次のページに続きます】