文/鈴木拓也

法改正で「暦年贈与」のメリットはなくなる!?

財務省が毎年発表する税制改正大綱を読むと、ゆくゆくは贈与税のありかたにメスを入れようという意思が見え隠れする。

すぐには法改正には繋がらないようだが、「贈与税の見直しと相続税との一体化、暦年贈与の廃止または縮小への流れは変わることはない」と主張するのは、税理士法人レガシィとその代表社員税理士である天野隆さんと天野大輔さんだ。

特に多くの人に影響が及びそうなのが「暦年贈与」。
現行の制度において、贈与税には年間110万円の基礎控除が適用されている。つまり、年間110万円以下の贈与であれば、原則的に贈与税は生じない。

そのため、毎年110万円の金額内で子どもに贈与を行い、親の死去に伴い発生する相続税を減らそうとする暦年贈与が、節税策として広く行われてきた。

もし、これが縮小・廃止となれば、暦年贈与のメリットも減るかゼロになる。
このため、慌てて子どもに贈与を行う「駆け込み贈与」をする人が出た。

しかし、著者は、「何も考えずに駆け込み贈与をすることほど危険なことはない」と、著書『「生前贈与」のやってはいけない』で警告する。

暦年贈与の「落とし穴」

暦年贈与をすると、どれほど節税できるかは「非課税贈与額×相続税の税率」の計算で求めることができる。

例えば、資産が1億円あるとして、2人の子どもに110万円の贈与を10年間続けた場合。非課税贈与額は2200万円となり、税率15%を掛けると330万円。これが節税額になる。
仮に暦年贈与をまったくしなければ770万円かかるはずだった相続税が、440万円で済んだという計算だ。
親が死去する直前3年間の贈与は、相続財産に含む規定があるが、長期の暦年贈与の節税メリットは無視できない。
しかし、この暦年贈与にはいくつかの「落とし穴」があると、天野さんは指摘する。
1例を挙げよう。
上の計算のように、毎年決まった額を贈与することを「定期贈与」と呼ぶが、これが問題になりえるという。

もしも、あなたが可愛い一人孫の誕生日のたびに100万円を贈与するのを、10年間続けた場合。
税務署はこの定期贈与に対して大きな関心を持ってチェックしています。
なぜかというと、「あらかじめ1000万円という大きな財産を、分割して贈与するつもりだった」と判断するためです。そうみなされると、贈与した1000万円に対して贈与税が課されてしまいます。(本書より)

対策として著者がすすめるのが「贈与契約書」だ。契約書といっても何枚にもわたる文書でなく、1枚ぺらで済み、何か決まったフォーマットがあるわけではない(本書に見本がある)。そして、公証役場で手続きをしておけばなおよい。また、詳細は割愛するが、「基礎控除額よりもわずかに多い額を贈与して、贈与税を申告する」という方法も提案されている。

高額の贈与でも節税効果が高くなることも

近い将来に来るであろう、税制改正に話を戻そう。著者は、税制改正を睨んでの駆け込み贈与自体は否定しない。

その際のポイントとして考えるのは、「現行の税制のもとで、相続税が最大限に節税されるような贈与」だ。つまり、いくらかの贈与税は払っても、トータルでは得になる贈与の金額をはじき出せばよい。著者は、子どもの人数、親の財産額、贈与する金額を変数として、本書に早見表を掲載している。例えば、子ども1人、資産は2億、贈与額1110万円の場合、早見表を見ると節税額は234万円。また、贈与額がこの金額を上回っても下回っても節税効果は減ることは、早見表から一目瞭然。

もちろん、基礎控除の枠内である110万円を贈与した場合には、贈与税がゼロでしかも財産が減るので、当然ながら節税効果があります。しかし、これらの表から読み取れるように、もっと高額の贈与のほうが節税効果が高くなるのです。これまでは、高額の贈与は税率が高いので損であると考えられてきましたが、そうではないことが証明されました。(本書より)

著者の読みでは、税制改正まで「何年もない」。相続税の節税を考えている方は、早めの着手が吉と出るはずだ。

贈与で子ども同士がもめないために

ところで、相続にまつわる子ども同士の争いがしばしば起きるように、贈与でももめごとの火種が上がることがあるという。

これを避けようと、同一の金額を配分しても、贈与のタイミングにずれがあると、「子どもは心中穏やかではありません」となる。例えば、兄には家を買う際に援助したから、今度は弟に孫の入学金を支援しようといった場合だ。親は細かい心配りをしたつもりであっても、「あいつはもらったのに、うちはもらっていない」となるリスクは消えない。著者が教える対策の筆頭は、「オープンにしないこと」だという。相続と違い、贈与は子ども全員で情報を共有する必要はないからだ。

また、どんな贈与をするかで、もめごとに一番なりにくいのは、意外にも現金だそうだ。
逆に物品や不動産の贈与は、問題になりやすい。ちなみに、よく問題になるのは「和服」だという。著者は、実際の例を挙げる。

亡くなったお母さんには2人の娘さんがいて、生前に一時同居していた長女が、引っ越しの際に着物をほとんど持っていってしまったのです。おそらく、お母さんも「もう着ないからいいわよ」くらいのことは言ったかもしれませんので、贈与にはなるでしょう。(中略)
しかし、次女にとっては重要な問題でした。タンスにあったはずの着物がごっそりなくなっているのを、相続のときに知ったようです。もっとも、それを表立って口に出すことはありませんでした。そんなものを、もらった、もらわないと言い出したら、もめごとになるだけだとわかっていたからです。(本書より)

古い着物は大概、相続財産に含めるほどの価値はない。しかし、子どもの間のいさかいは、金銭的価値がどうこう以前に「親の愛情の奪い合い」から来るものだという。著者は、心情面でもめるのを防ぐためには、「気を使い、お金を使う」ようアドバイスする。それは、旅先からのお土産や祝いごとなど、折に触れ贈り物をするというのでも効果は大きい。なにも値の張る品でなく「2000円や3000円程度のもので十分」だそうで、代わりにまめに贈るのが大切なのだそうだ。

* * *

既にふれたように、暦年贈与に影響する法改正は、いつかはあるものと想定したほうがいい。その「いつ」は予測できないが、天野さんは、「それまでに何をすべきか検討して、最善の策を実行する」ことが大事と説く。それに必要な知識の土台作りとして、本書は有用な一冊となるはずである。

【今日の定年後の暮らしに役立つ1冊】
『「生前贈与」のやってはいけない』

税理士法人レガシィ著、天野隆著、天野大輔著
青春出版社

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文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。

 

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