いうまでもなく、日常生活において積極的に運動しようということ。しかし、それはジョギングをするとかジムに通うというようなことだけではない。

先生がおっしゃったのはとてもシンプルな話でした。それは、「通勤の時に駅でエスカレーターを使わずに必ず階段で上り下りしなさい」ということだったのです。
なるほど、たしかに当時はサラリーマンでしたから、毎日通勤していました。それも都内でしたから、地下鉄を降りて地上に出るためには必ずエスカレーターなどを使っていました。それを使わずに、階段で上がりなさい、というのです。しかも、たったそれだけのことをやればよいというのです。(本書208ページより引用)

ここでは通勤の話題が引き合いに出されているが、リモートワークで通勤の必要がなくなった方であっても、やろうと思えばすぐにできるはずだ。買い物などで外出する際などに、エスカレータに頼らず階段を利用すればいいだけなのだから。

最初は、「気がつけばエスカレーターを利用していた」ということにもなるかもしれない。著者も階段を利用する習慣がつくまで半年ほどかかったというが、逆にいえば、そこを乗り越えればなんとかなるということだ。

しかもその結果、中性脂肪もコレステロールも数値が大きく改善し始めたという。つまりはそれこそが、「ちょっと無理する」ことのメリットなのだろう。

私は健康について特別何か健康法を実践しているわけでもないですが、昔から「早く寝る」ことと「食べ過ぎないように気を付ける」ことだけは心がけています。
そして今から10年ほど前の58歳の時に、「ちょっと無理する日常生活を心がける」ということを教えてもらったことで、年齢相応の衰えをリカバリーするにはどうすべきかがわかったような気がします。(本書210ページより引用)

もちろん体質や遺伝は人それぞれなので、どんな人にもよいという健康法はなかなかない。しかし、「栄養のバランス」「睡眠と休養」「適度な運動」の3つは、おそらく誰にとってもよい影響を及ぼすだろうと著者は記している。

定年が近づいたら、あるいは定年になったら、それまでの生活習慣をリセットしてみることも大切でしょう。私は58歳から駅での階段上りを続けていますが、今回のコロナ禍で自宅にいるようになってからは、毎朝早く起きて1時間ほど近所を散歩することを始めました。そのおかげでステイホームの期間でも体重も体脂肪も減りました。(本書211ページより引用)

「一大決心をして本格的に運動を始めよう」というようなものではなく、「ほんのちょっと無理をする」日常生活を習慣化することこそが重要なのだろう。


『定年前、しなくていい5つのこと』

大江英樹 著
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文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( ‎PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

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