永禄12年(1569)、ポルトガル人宣教師ルイス・フロイスにより、織田信長に献上された南蛮菓子コンフェイトス(金平糖)。写真は当時の金平糖を復元した「復刻 信長の金平糖」。

【今も買える店】『京都大学総合博物館 ミュージアムショップ ミュゼップ』京都大学総合博物館内のショップ。受付に申し出れば30分間、入館料無料で利用できる。「復刻 信長の金平糖」1000円。取り寄せ可。京都市左京区吉田本町 電話:075・751・7300

天文12年(1543)は、歴史の教科書には、「ポルトガル人が種子島に漂着し鉄砲を伝えた」年として書かれているが、「甘いもの」の歴史からみると、ここから、西洋の「甘いもの」との深い関係が始まったともいえる。

特に大きかったのは、キリスト教の布教を目的にやって来た南蛮人(ポルトガルやスペイン)の存在だった。

「『太閤記』(1625年)の中に、宣教師の布教の様子が描かれているのですが、彼らは入信を勧める際、酒飲みには葡萄酒などの酒を飲ませ、下戸には、カステラや金平糖などの南蛮菓子をあげたといいます。金平糖は砂糖の塊ですから、当時の日本人が驚いたのは間違いありません」(青木直己さん)

青木さんによれば、日本は江戸時代に入っても、白砂糖は輸入に頼っていたという。

「宝永4年(1707)の資料によると、貿易相手国のオランダから仕入れた品物のうち、金額でいうと、約3割、29.4%を砂糖が占めています」

となれば戦国の世で、金平糖の重みは、今と異なる。

「永禄12年(1569)、ポルトガル人宣教師のルイス・フロイスが、キリスト教布教の許可を得ようと京へのぼり、当時工事中だった将軍・足利義昭の二条邸で、時の権力者、織田信長と対面しています。この時の献上品が、フラスコ(ガラス瓶)に入った金平糖だったのです。信長への贈り物に選んだくらいですから、金平糖の価値がわかろうというものです」

ルイス・フロイスが織田信長へキリスト教布教の許可を願い出る切り札が金平糖だった。野村文紹『肖像』。国立国会図書館蔵

キャンディ、有平糖、南蛮焼き菓子のボーロ、砂糖を煮詰めて固めたカルメラなどの南蛮菓子の中でも菓子の歴史を変えたのは「カステラ」だ。

「カステラの主な材料は、小麦粉、砂糖、卵です。実はこの時、“調理に卵を使う”ということが、和菓子の歴史に一大転機をもたらしました。これまで日本人は、宗教的な禁忌から、鶏卵を食べる習慣が少なかったといいます。南蛮菓子を通じて、食品調理に卵を使うことが当たり前になり、江戸時代には『万宝料理秘密箱(玉子百珍)』(1785年)という卵料理専門書まで誕生しています。和菓子もまた、材料のほとんどが植物性原材料ですが、唯一の例外が卵なのです。南蛮文化との出会いが、和菓子の味を深くしたといっても過言ではないでしょう」

辞書にも載った様々なお菓子

宣教師の大名への献上品のひとつ「有平糖」。ポルトガル語の「アルヘル」(砂糖)が訛ったという。高価な砂糖で作った細工の飴は、大名に喜ばれた。写真は『甘春堂』の有平糖。

【今も買える店】『甘春堂』1865年創業の京都の老舗が作る「有平糖」。写真の渦巻き状の「水」3個入り、「千代結び」(赤、緑、共に5個入り)、「照葉」3個入り、各400円。オンライン販売あり。京都市東山区上堀詰町292-2 電話:075・561・4019

では南蛮菓子が伝来した当時、日本の菓子事情はどうだったか。

宣教師の日本語修得のため、日本イエズス会が発行した『日葡辞書』(1603年)には、多くの菓子の名が掲載されている。

砂糖羊羹、砂糖饅頭、薄皮饅頭などの点心類。小豆餅、砂糖餅、草餅などの餅類。その他、飴、金団、団子、ふの焼き……。

「この当時の日本人が、甘いお菓子を食べていたこと、たくさんの種類のお菓子があったことが見て取れます。いよいよお菓子の発展が始まります」

茶の湯を大成した千利休(上、肖像、堺市博物館蔵)。その利休が茶会で頻繁に使った菓子が「ふの焼き」(下、再現、虎屋提供)だ。一説には、小麦粉を水で溶き焼き、白味噌を塗ったとされる。

※この記事は『サライ』本誌2021年2月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。

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