取材・文/坂口鈴香

himawariinさんによる写真ACからの写真

【1】では、コロナ禍において、会うことが難しくなった高齢の親を支える子世代の声を紹介した。

家族に限らず、人と会えないのはさびしい。それでなくても、高齢の親は、老いによってさまざまな喪失感を抱いている。新型コロナウイルスは、そこに孤独という追い打ちをかけたのだ。

そもそも、「孤独」とは何なのか?

【1】はこちら

新型コロナウイルスがもたらした「孤独」とは

明治大学教授で臨床心理士の諸富祥彦氏によれば、孤独には3種類あるという。

それが

1 社会的孤立。離婚、死別、破談、失職などがもたらす別離によって、他者とのつながりや社会的な連帯から切り離され、疎外された心理的社会的な状態。自分で選んだのではなく、自分の意志とはかかわりなく訪れてしまう「非選択的な孤独」
2 他者とのしがらみや同調圧力から解放され、自由になった心理社会的な状態。自分の意志で選んだ「選択的な孤独」
3 一人、静かに己と向き合い、自分の内側深くとつながり、自己の内面を見つめていく「深い孤独」だ。(『孤独の達人』(PHP新書)p21-23)

今回のコロナ禍で引き起こされた孤独は、1の「自分の意志とはかかわりなく訪れる孤独」に当たるだろう。2や3と比べるとネガティブな孤独であり、ストレスも大きいことは想像に難くない。親がこの状態にあるのなら、家族はなんとかしてサポートしたいと思うのではないだろうか。

なかでも、心配されるのがひとり暮らしの親だ。

ひとり暮らしの高齢者は生活満足度が高い

こんな興味深い調査がある。

大阪府門真市医師会で、大阪府下の60歳以上のひとり暮らしの高齢者を電話で情報共有しながら支援する活動を担当している辻川覚志氏が、1万回以上の電話に加えて氏の診療所に来院した方へのアンケートや会話も含めてまとめたものだ。

“60歳以上の方に、日常生活における満足度を100点満点で評価してもらいました。(中略)ひとりで暮らす方の平均は73.9点、家族と同居している方の平均は68.4点と、ひとり暮らしの方のほうが満足度が高いという、少し予想外の結果が得られました。”(辻川覚志『老後のホンネ、幸せなのはどっち?』(PHP文庫)p16)

また同氏の『老後はひとり暮らしが幸せ』でも、60歳以上の高齢者460人を対象にしたアンケートを行った結果、ひとり暮らしの高齢者の人生の満足度は、家族と同居している高齢者の人生の満足度よりも高かったという結果が出たと述べている。しかも、子どもの有無は老後の満足度にほぼ関係していないというのだ。

“アンケート結果によりますと、子が近くにおられる場合も、遠方にしかおられない場合も、子がいない場合も、すべて満足度は大きな差は認められませんでした。”(『老後はひとり暮らしが幸せ』(水曜社)p27)

信頼のおける友人や親戚がいればよい

さらに氏は、ひとり暮らしの人に、「暮らしを支えてくれているものは何ですか」という質問をしている。その結果、満足度を上げるためにもっとも重要なポイントは、「信頼のおける友人や親戚」だということがわかった。

“緊急時ではなく、普通の生活において、なんでも相談できて、どんなことも話ができる友がいることは心強いものです。(中略)親身になって聞いてくれる人がいれば、その人に話をするだけでも、気分が楽になると思われます。(中略)同じ目線で話ができる真の友達は、同世代が多そうで、通信手段が発達した今の時代では、必ずしも近くにいる必要はなく、別に遠方に住んでおられて、月1回程度の電話だけでも充分だとおっしゃるのです。”(同p36-37)

幸せな老後のために、持つべきものは真の友――。自分にはそういう存在がいるか、わが身を振り返った子世代もいるのではないだろうか。いずれにしても、頻繁に会えない、遠くの友人でもよいというのは、ひとり暮らしの親を心配する子どもにとって朗報だ。

* * *

とはいえ、高齢になると、親しい友人やきょうだいに先立たれることも多い。それに、「ひとりで暮らしている高齢者も、話し相手がいないと気持ちは後ろ向きになるし、抑うつ気分は膨らむ」。こう指摘するのは、公認心理師・臨床心理士の高橋幸市氏だ。

コロナ前、高齢の親が人とコミュニケーションを取る機会は日常生活にたくさんあった。しかし、今はコロナウイルスの感染リスクを減らすために、人との距離を取ることが求められている。趣味の集まりや仲間との会食などはもちろん、近所の人との立ち話さえはばかられるようになり、コミュニケーションを取る機会は大幅に減っている。心理的にも人との距離は遠くなってしまった。

新型コロナウイルスによって生まれたこの孤独をどう乗り越えるのか、次回で考えてみたい。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

 

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