インフラの整備されっぷりがスゴイ!江戸は世界に冠たる「清潔都市」だった

「江戸名所図会」より。霞ヶ関の大名屋敷の石垣に沿って下水が流れている。石垣についている黒い屋根付きの小箱は排水口。(国立国会図書館蔵)

「江戸名所図会」より。霞ヶ関の大名屋敷の石垣に沿って下水が流れている。石垣についている黒い屋根付きの小箱は排水口。(国立国会図書館蔵)

文/堀口茉純(PHP新書『江戸はスゴイ』より転載・再構成)

江戸は、じつはインフラがとても整備された都市でした。

江戸っ子たちの飲み水を確保するために、まずは井の頭池から総延長63キロにもなる長大な上水道・神田上水が引かれ、続いて多摩川から水を取り込む玉川上水が開削されました。合わせて総延長150キロという、当時、世界最大級の上水道でした。土木作業には、当時のハイテク技術が駆使されました。

さらに注目すべきは、下水網の充実です。都市部の生活用水や雨水を、堀や川へ排水して海へ流す仕組みが、上水道と同じ17世紀半ばごろ、つまり江戸時代初期には完成していたのです。

下水の整備と清潔なトイレ事情

下水というと、現在は、なんだか悪臭が漂う場所というイメージがありますが、このころはそんなことはありませんでした。水質汚染につながるような洗剤や化学物質は存在しませんし、なにより屎尿を汲み取り式にして、下水には流さなかったことが大きかったのです。

なぜなら、屎尿、特に屎=大便は単なる汚物ではなく、農家にとっては貴重な肥料として考えられていて、金や野菜と引き換えにして引き取られていたからです。

長屋には共同便所があり、下肥代は大家の副収入源になっていましたし、人の集まるところには辻雪隠(つじせっちん)=公衆トイレがあって、そこで用を足すのが当たり前でした。

なにより、トイレで用を足すという当たり前の行為が、都市の公衆衛生に果たす役割は非常に大きいものでした。

同時代のヨーロッパ諸国では、屎尿は下水や側溝に流すか、路上に垂れ流すのが基本。当時の女性たちのスカートが胸から下が膨らむようになっているのは、立ったまま路上で排泄行為がしやすいようにするためだそうですし、ハイヒールもなるべく路上の汚物を踏まないように普及したという説があります。

こういった状態がコレラやぺストといった伝染病の温床となり、パンデミック(感染症の爆発的流行)を生み出していたということはいうまでもありません。江戸にこの類の問題が少なかった理由の一つは、清潔なトイレ事情が関係していたと考えて間違いないでしょう。

また、下水自体を清潔に保つための取り組みも積極的に行われており、「下水枡にはゴミがたまりやすいから定期的に掃除するように」とか「下水の上にトイレを作ってはいけない」とかいった町触れが、たびたび出されていました。こうして江戸はナチュラルに公衆衛生に配慮したキレイな町になっていったのです。

幕末に日本を訪れたイギリス人外交官・オールコックは、「よく手入れされた街路は、あちこちに乞食がいることをのぞけば、きわめて清潔であって、汚物が積み重ねられて通行をさまたげるというようなことはない」「これはわたしがかつて訪れたアジア各地やヨーロッパの多くの都市と、不思議ではあるが気持ちのよい対照をなしている」(『大君の都 幕末日本滞在記』オールコック著)と感想を述べています。

世界レベルで誇れる大都市・江戸

上下水道だけではありません。江戸と地方を結ぶ主要五街道=東海道・中山道・甲州道中・日光道中・奥州道中の整備も、江戸時代中期、十八世紀前半に完了。街頭筋には宿場町が設置されました。宿場は旅人のための宿泊施設であることはもちろん、人馬を常駐させて宿場から宿場へと人や物資を確実に継ぎ送る、宿継の機能を負担したのです。

こうして人・情報・物流の全国的なインフラがほぼ整った状態となったころに、江戸の町方人口は50万人に達し、武家人口と合算すると、総人口が100万人を超えるに至りました。ちなみに、ロンドン・パリが人口100万人を突破するのは、十九世紀に入ってからのことです。

江戸が世界的に見ても遜色ないレベルの都市だったと思うと、なんだか誇らしいですよね。

文/堀口茉純
東京都足立区生まれ。明治大学在学中に文学座付属演劇研究所で演技の勉強を始め、卒業後、女優として舞台やテレビドラマに多数出演。一方、2008年に江戸文化歴史検定一級を最年少で取得すると、「江戸に詳しすぎるタレント=お江戸ル」として注目を集め、執筆、イベント、講演活動にも精力的に取り組む。著書に『TOKUGAWA15』(草思社)、『UKIYOE17』(中経出版)、『EDO-100』(小学館)、『新選組グラフィティ1834‐1868』(実業之日本社)がある。

※この記事は下記書籍より、著者の了解のもと編集部にて転載・再構成しました。

【参考図書】
ページを開けば愉快な町へ!
『江戸はスゴイ』世界一幸せな人びとの浮世ぐらし
(堀口茉純・著、本体880円+税、PHP新書)

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ここまで楽しく素晴らしい町だったとは! 浮世絵などイラスト満載で、ページを開けばお江戸の世界。その魅力がみるみるわかる極上の書。浮世絵や版本など、江戸人によって描かれた絵画史料をふんだんに盛り込み、〝庶民が主役〟の江戸がいかに魅力的で、面白くて、スゴイ町だったかを徹底紹介する。

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