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一歩一歩確実に、その日を信じて『復活の日』【面白すぎる日本映画 第43回】

文・絵/牧野良幸

今年は東京オリンピック一色の年になるだろうと思っていたのだが、まさか未知のウイルスの年になるとは思わなかった。こんな状況になるとは誰も予想しなかったはずだ。

しかし今の状況と似たような世界を40年前に描いた日本映画がある。それが1980年公開の『復活の日』だ。小松左京の原作を映画化。監督は深作欣二。主演は草刈正雄である。

『復活の日』が公開された1980年といえば、男の髪形が長髪からテクノカットに変わる頃だ。女の子の間ではハマトラがはやっていた。ネクラだった70年代が終わり、日本では空前の経済発展が始まろうとしていた。そんな1980年の6月に映画は公開された。ちょうど今から40年前となる。

映画のストーリーはこうだ。

時は1982年の初め。秘密裏に研究されていたウイルスMM-88が、国家間の陰謀とアルプス山中での飛行機事故により、人知れず地上に放出されてしまう。ウイルスはすぐに広まりイタリアでは多くの感染者が出る。その後も各国で広まるウイルス。当初はその症状から「イタリア風邪」と呼んでいた人々も次々と感染し死んでいく。驚異的な増殖を続けるウイルスに対してワクチンも薬もなかった。

こうして1982年の秋、人類はごく少数を除いて死滅してしまうのだ。MM-88は極度の低温では活動しないため、南極大陸にいた863人だけが生き残った。その中に主人公である吉住(草刈正雄)もいた……。

これまでならウイルスの蔓延というありがちなテーマとして、涼しい顔で観ただろうが、新型コロナウイルスが蔓延している今ではそうもいかない。映画中に今の状況とよく似たシーンが出てくると穏やかではいられない。

病院に殺到する人々。疲労する治療現場。そして自らもウイルスに侵され倒れいく医師や看護師たち。どれも新型コロナウイルスを伝えるニュース映像と重なる。映画では医療従事者が防護服もマスクもしないで治療にあたっているが、それを誰がツッコめようか。コロナ以前なら僕も疑問を持たずに観ていたはずだ。

しかし40年前の映画が、現在の状況を正確に予告しているかといえばそうでもない。違うところもある。

映画では感染が広がると国民はパニックを起こし暴動が起きる。日本政府は全土に戒厳令を発する。その方が映画らしいのだが、2020年のわれわれは自粛要請にしたがって「おこもり」をしていたし、政府も強制力をともなう都市封鎖をしなかった。

映画の冒頭に出てくる無人の東京のシーンにしても、一見、自粛要請の頃の東京のような風景だが、やはり違う。映画では街角に車があちこちに置き去りにされ、中に白骨化した死体。ここまでくるとリアルというより、やはり映画的な演出だ。

どうしてもウイルス関連の感想が先にきてしまうが、映画自体は、日本映画とは思えないほど壮大な作品だ。特に南極でのロケがすごい。本物の潜水艦も登場する。実は生き残ったのは各国の南極観測隊だけでなく、原子力潜水艦に乗っていた乗務員も生存していたのだ。

外国人俳優がたくさん出演することもこの映画ならではだろう。ストーリーも外国人俳優で進行していくところが多いので、字幕も多い。まるで洋画を観ているような気分である。

そんな中でひとり草刈正雄が日本人として存在感を与えられている。まるでハリウッド映画に出演している日本人俳優を見ているような感じだが、主役である。それも南極ノルウェー隊マリト役のオリビア・ハッセーという、当時の日本人には憧れのスターとの共演。草刈正雄でなくては務まらない役柄だ。

その草刈正雄が演じるのは、吉住という地質学者だ。ウイルスの蔓延から1年たち、南極で暮らす吉住はあることを発見する。まもなくアメリカのワシントンD.C.の地域で核爆発級の大地震が起きる、と。

その結果、人は死に絶えてもシステムは作動し、アメリカからソ連に向けて報復ミサイルが発射される。そうなればソ連からも自動で報復ミサイルが発射される。悪いことにソ連のミサイルは吉住たちが暮らす南極のアメリカ隊基地も照準としていた。吉住はアメリカ人のカーター少佐とミサイル発射を防ぐために、ウイルスの蔓延するワシントンD.C.のホワイトハウスに向かう。

ウイルスによる人類滅亡だけでも重い話なのに、核戦争による二度目の人類滅亡まで重ねるのだから、さすがに小松左京のSFはスケールがでかい。

結局、ミサイル発射は阻止できなかったのであるが、それでも生き残った人類は未来に向けて新たな生活を始める。吉住もウイルスと地震で死都と化したワシントンD.C.からみんなのもとに帰還する。ワシントンに向かう際に投与したウイルス用ワクチンも効果が認められた。これからマリトとの新生活が始まることだろう。

『復活の日』は悲劇を描きながらも、タイトルにふさわしく最後は希望に満ちた映画だ。新型コロナウイルスとの戦いはまだ予断を許さないが、われわれも復活の日を信じて毎日を過ごして行きたい。吉住がワシントンから南米の南端まで徒歩で縦断したように、一歩一歩確実に。

【今日の面白すぎる日本映画】
『復活の日』
製作年:1980年
製作会社:角川春樹事務所/TBS 配給:東宝
カラー/156分
出演者/草刈正雄、オリビア・ハッセー、夏木勲、多岐川裕美、千葉真一、渡瀬恒彦、緒形拳、ロバート・ヴォーン、チャック・コナーズ、ジョージ・ケネディ、ほか
スタッフ/原作: 小松左京 監督: 深作欣二 脚本: 高田宏治、深作欣二、グレゴリー・ナップ 音楽:テオ・マセロ、羽田健太郎 主題歌:ジャニス・イアン「You are love」

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』『オーディオ小僧のいい音おかわり』(音楽出版社)などがある。ホームページ http://mackie.jp

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