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日本の「クリスマス」のおかしな常識とは?【世界が変わる異文化理解レッスン 基礎編34】

文/晏生莉衣
日本の「クリスマス」のおかしな常識【世界が変わる異文化理解レッスン 基礎編34】世界中から多くの人々が訪れるTOKYO2020の開催が近づいてきました。楽しく有意義な国際交流が行われるよう願いを込めて、英語のトピックスや国際教養のエッセンスを紹介します。

* * *

クリスマスのデコレーションやイルミネーションでにぎやかになるこの季節。11月にはローマ教皇フランシスコが来日され、長崎、広島、東京で平和への祈りと強いメッセージを残されて大きな話題となりましたが、日本では、キリスト教信者数は人口の1パーセント程度と大変少ないにもかかわらず、キリスト教のお祝い事であるクリスマスが盛大に祝われるという不思議な国です。しかし、真似事であるが故に、日本のクリスマスには本来の祝い方とはだいぶ違うところがあります。海外事情についてくわしい日本人が増えてきたからでしょうか、昨今は少しずつ修正されてきているようですが、今回はそうした日本のクリスマスの「ここがおかしい」を取り上げてみましょう。

1.11月になったらクリスマスの飾りつけをする

イエス・キリストの誕生を祝うクリスマスですが、12月25日にイエスが生まれたということではありません。よく言われるのは、太陽神崇拝があった時代、ローマ暦で冬至にあたる12月25日に太陽神の誕生が祝われていたことから、キリスト教の広がりとともに、神の子イエスの誕生をこの日に祝うようになったという説です。

その後に定着したキリスト教の教会暦では、クリスマスからさかのぼって4つ前の日曜日からAdvent(アドヴェント)が始まります。日本語では「待降節」と呼ばれますが、救い主イエス・キリストの誕生を待ち望み、クリスマスを準備するための期間で、このAdventの始まりに合わせてクリスマスツリーなどのデコレーションをするのが慣習になっています。アメリカでは11月第4木曜日にThanksgiving (サンクスギヴィング、感謝祭)が祝われるので、サンクスギヴィングデーが過ぎるとすぐにAdventがやってきて、一気にクリスマスモードに突入という感じになります。

一方、日本では、11月に入ったと思ったらショッピング街にクリスマスソングが流れたり、大きなクリスマスツリーが登場したりすることがあります。クリスマス商戦を早く開始したいという動機が見え隠れしますが、これはあまりに早すぎます。最近はこのタイミングのズレに気づき、欧米の時期に合わせて飾りつけをするのが正統だとする方向になってきているようですが、それでもまだ、本場と比べるとかなり早い時期にクリスマスのライトアップイヴェントが催されるようなことがあります。

2.クリスマスツリーは12月25日の終わりにさっさと片づける

クリスマスの飾りつけを始めるのが早いのが日本流なら、片づけるのが早いのも日本流。クリスマス関連のものは12月25日が終わるやいなや、一気に取り払われるのが一般的です。あるイヴェントが終わるとそのための装飾や宣伝用具はすぐに撤去されますが、クリスマスもそれと同様の扱いです。すぐ後にやってくるお正月用の飾りに変えなければいけないという日本の文化的事情を考えれば当然の成り行きではあるのですが、キリスト教圏の慣習では、25日を境にクリスマスデコレーションが一斉に姿を消してしまうことはありません。年内はもちろん、新年になってもクリスマスのデコレーションをそのままにしておくのが普通です。

では、本来、クリスマスシーズンはいつまで続くのでしょうか。教会暦ではクリスマスが終わるのは、Epiphany(エピファニー)と呼ばれる1月6日です。クリスチャンでなくても、「三人の賢者」とも「東方の三博士」とも言われるクリスマスにまつわるエピソードをご存知の方は多いと思いますが、キリスト教では、ベツレヘムに生まれた幼子イエスのもとを東方の三博士が星に導かれて訪問し、礼拝したのが1月6日とされ、この日は、イエスが異邦人の前に公に姿を現されたことを記念する祝日になっています。日本語では、カトリックでは「主の公現」、聖公会では「顕現日」と呼ばれていますが、このEpiphanyまでクリスマスの飾りつけがされているのが一般的です。宗派によってはEpiphany前夜の1月5日夜までにクリスマスのものを片づけなくてはいけないとしていますが、以上はグレゴリオ暦を用いている西方教会の暦で、同じキリスト教でもユリウス暦を使う正教会は、1月7日付近がクリスマスになります。

3.クリスマスを「X’mas」と書く

そもそもクリスマスとは “Christ’s mass”(キリストのミサ)のことで、それが短縮されてChristmasとなりました。Xmasという書き方もありますが、簡潔に言うとこのXはギリシャ語でChristのことですので、Christmasと同義です。他方、日本では似たようなX’masという表記がされることがあります。街なかで「X’mas Sale!」といった宣伝を見かけることがありますが、Xの後に「’」(アポストロフィ)という記号をつける書き方は正しくありません。

どうしてこういう書き方がされるようになったのか不明ですが、英語では省略形や短縮形にアポストロフィを使うので、英語がネイティヴの人でも「略語を使ったので習慣的についアポストロフィをつけてしまった」という間違いをまれにすることがあります。X’masもそうしたアポストロフィの誤用表記とみられます。見方によっては、キリスト教の知識がある人が、元々のChrist’s massのChristをXに置き換えたのではと考えることも出来なくはありません。しかし、そうであれば、X’masではなくX’s massとなるので、日本で使われる「X’mas」は、Christ’s massとChristmasをごっちゃにした上で省略形を用いたような、なんとも中途半端な書き方です。

補足すると、アポストロフィのないXmasという書き方は、視覚的なデザイン効果を狙う目的やポップカルチャーなどで使われることはありますが、Christと書かずにXとするとインフォーマルで軽い感じがするのと、神の子である「キリスト」に対して略語を使うのは不敬だという考えから、Xmasという書き方を好まないと考える人も多くいますので、英語圏のクリスチャンの友人や仕事相手にクリスマスカードを送るような場合は、きちんとChristmasと書くほうがいいでしょう。

4.誰にでも「メリークリスマス」

“Merry Christmas!” は、イエスの誕生を喜び合う気持ちを込めて「よいクリスマスを!」と伝えるためのお祝いの挨拶です。英語圏で国民の大半をキリスト教徒が占める時代にクリスチャン同士の挨拶に使われてきたものですから、同じ英語圏でも現在のように異なる宗教や文化を持つ人々が暮らしている社会では、公に「メリークリスマス」という挨拶をするのは控えるようになっています。キリスト教信者でない人にクリスマスのお祝いを伝えるのはおかしいですし、キリスト教中心の世界観や習慣の押しつけとも考えられ、相手に不快感を与えてしまうこともあります。ですから、英語圏では、従来の “Merry Christmas” ではなく、
“Happy holidays!”(楽しい休日を!)
“Wishing you a happy holiday season”(楽しい休暇を過ごされることをお祈りします)
というような表現が使われるようになっています。

ところが日本人は往々にしてクリスマスは宗教的行事だという意識に欠けているということもあって、あまり深く考えることなく誰に対しても「メリークリスマス」という表現を使ってしまいがちです。だいぶ以前、日本の大企業が、クリスマスに合わせて全世界の取引相手やカスタマーに「クリスマスメッセージをメールで送る」ことを検討しているというニュースを耳にして、それは止めたほうがいいのではと他人事ながら慌ててしまったことがあります。国際化の中で日本のビジネス界も世界の常識を知り、宗教的なことに対する配慮を心がけるようになっていますから、今はこういうことは起こらないと思いますが、公私にかかわらず十分に注意したいところです。

* * *

一般的に言って、日本ではキリスト教の信仰とはまったく無関係にクリスマスが祝われており、無宗教的な日本の大衆文化の特性がよく現れています。異なる外国文化のみならず、信じていない宗教のお祝い事までも違和感を持たずにスーパーフィシャルに取り入れて、なんでもレジャー化、ビジネス化してしまうのは、日本人の特異性なのか、それともグローバル化が生む世界共通化現象というアウトプットなのでしょうか。

クリスマス

キリスト教圏に目を向けると、クリスマスというイヴェントが物質的なことに支配されてしまっているのは、スケールからして日本の比ではありません。アメリカのブラックフライデー、サイバーマンデーに象徴されるように大変なクリスマス商戦が繰り広げられ、子どもがプレゼントに欲しがる人気商品を大人が店頭で奪い合うといった狂想曲が奏でられるのが恒例になっています。宗教離れから、クリスマスに教会に行く人が年々減っているのも事実です。

それでも、クリスマスを盛大に祝う一方、スープキッチンと呼ばれるホームレスの方々への炊き出しでヴォランティアしたり、困難な状況で暮らす子どもたちに贈るクリスマスプレゼントを学校や会社や地域のコミュニティで集めたり、援助が必要な人たちへの献金をしたりという慣習は、今も変わることなく多くの人たちによって自発的に続けられています。カトリック教会では、祈りの中で自分を振り返り、過ちを認め、神の許しを願うconfession(コンフェッション。日本語では「告解」と呼ばれる)をクリスマス前にすることが時代を問わず勧められています。クリスマスシーズンに一番大切なChristmas Spirit(クリスマススピリット)を忘れないように努めること、それがクリスマスの伝統です。そうした特別な季節の精神とは関係なしに、日本人は一体、なぜ、なんのためにクリスマスを祝うのでしょうか?

文・晏生莉衣(Marii Anjo)
教育学博士。20年以上にわたり、海外で研究調査や国際協力活動に従事。途上国支援や国際教育に関するアドバイザリー、平和構築関連の研究等を行っている。

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