文・絵/牧野良幸
1975年の映画『新幹線大爆破』は日本製パニック映画だ。それもハリウッド映画のようにスケールの大きなパニック映画である。
ある朝、東京発博多行きのひかり109号に爆弾が仕掛けられた。犯人グループは3人だ。リーダーの沖田(高倉健)が鉄道公安本部に電話をかけてきて、爆弾の取り外し方と引き換えに現金500万ドル(15億円)を要求する。本当に新幹線を爆発させるつもりはない。沖田は自営の工場が潰れ、家族にも逃げられた不運な男だ。お金を手に入れて人生をやり直したかっただけなのだ。
しかし爆弾を仕掛けられた国鉄(現在のJR)の運転指令室には緊張感が走る。室長の倉持(宇津井健)は運転士の青木(千葉真一)に連絡する。
「いいか青木君、落ち着いて聞いてくれ。ひかり109号に爆弾を仕掛けたという電話があった」
「で、どこで停車するんです?」
「止められないんだ。80キロ以下になると爆発する仕掛けだというんだ」
「そんなバカな!」
速度を落とせないとあっては運転士の青木も操縦桿を握る手が緊張する。犯人の言うとおりなら絶対に止まることができない。しかしスピードをおさえても10時間後には博多に着いてしまう。まさにパニック。
高倉健、宇津井健、千葉真一らの男臭い演技がカッコいい。高倉健は公衆電話で話しているだけで哀愁が漂う。宇津井健はテレビドラマ『ザ・ガードマン』の勇姿そのままだ。制服が似合う。そして格闘シーンこそ出てこないが、タフな運転士は千葉真一にしかできない。
こうして映画は、3人の犯人、警察の捜査、ひかり109号を止めないように苦心する指令室、パニック状態の乗客を同時進行で描くのである。これでもか、これでもかと起こるアクシデントは日本映画に珍しくジェットコースターに乗っているようなハラハラドキドキだ。
しかしそのハラハラドキドキに、やがて“じれったさ”が加わる。警察は犯人を2人まで追い詰めるのだけれど、どちらも捉える前に死亡させてしまう。倉持がついに警察に怒りを爆発させる。
「また失敗した? 109号はあと博多まで6時間しかないんですよ。どうしてもっと慎重におやりにならないんですか!」
ほんとだよ! 倉持の声は僕の声の代弁でもあった。あと一歩まで犯人を追い詰めながら取り逃がす警察の捜査ミスに「面白すぎる」を超えて、じれったくなるのだ。
まあこれがパニック映画の作り方でもあるわけであるが、まるで神様が新幹線を止めたくないかのように、次々と難題、アクシデント、災害(?)が襲いかかる。
そう、『新幹線大爆破』はパニック映画を極めるべく意外な展開を詰め込んだせいで、逆に“愛すべきツッコミ映画”にもなるのだった。諸刃の剣なのかもしれない。
しかしツッコミというのは飽きるのである。映画を2回目に観たときにはツッコミを楽しんだ僕であるが、3回目に観たときはツッコミは消えていた。4回目に観ると再びハラハラドキドキする映画になった。むしろ「こんな展開もありうる、偶然もありうる」とさえ思った(何度も観ているのがバレてしまった)。
こうしてたどりついた結論は、やはり『新幹線大爆破』は世界に誇れるパニック映画ということだ。2時間33分があっという間に過ぎる。あと、やはり高倉健の“男の哀愁”を描いた映画でもある。これももう一つの結論である。
【今日の面白すぎる日本映画】
『新幹線大爆破』
製作年:1975年
製作・配給:東映
カラー/153分
キャスト/高倉健、千葉真一、宇津井健、山本圭、郷鍈治、竜雷太、ほか
スタッフ/監督:佐藤 純彌 脚本:佐藤 純彌、小野竜之助 音楽:青山八郎
文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』『オーディオ小僧のいい音おかわり』(音楽出版社)などがある。ホームページ http://mackie.jp