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文・絵/牧野良幸

10月にショーン・コネリーさんが亡くなった。90歳だったという。ショーン・コネリーさんは数多くの映画で活躍した世界的俳優だ。その中でも007シリーズの初代ジェームズ・ボンド役は有名である。そこで今回はショーン・コネリーさんが出演した『007は二度死ぬ』を取り上げる。

『007は二度死ぬ』はシリーズ第5作となる作品で1967年(昭和42年)の公開。当時僕は小学生であるが、スパイブームだったから007は大人気だった。小学生は“ジェームズ・ボンド”ではなく、“ゼロゼロセブン”と暗号名で呼ぶ方がカッコいいと思っていたが。

もちろん大人たちにも『007は二度死ぬ』には胸が躍ったに違いない。なにせ舞台が日本だ。今でさえ外国映画で日本が舞台になると嬉しいから、当時はさぞ大事件であったことだろう。日本は高度経済成長期に入っていたものの、まだ貧しかった。そんな日本が世界的映画、それも007シリーズの舞台になったのだ。東京オリンピック、ビートルズの来日と並んで、世界に誇れる出来事に思えた。

映画はまず香港から始まる。いきなりボンドが銃弾に倒れてショッキングなオープニングだ。もちろんボンドは生きている。表向きは死んだと思わせて秘密裏に日本に向かうのだ。アメリカの宇宙船ジュピター16号が謎のロケットに剥奪されるという事件が起き、そのロケットが降りたのが日本だという。それを調べるのがボンドの使命である。

密かに上陸したボンドが向かったのは東京。映画は銀座のネオンを映し出す。色とりどりの電光には企業の名前や、漢字やカタカナの文字が浮かび上がる。銀座のネオンを映す映像は昔の日本映画の常套手段でもある。なんだか日本映画を見ているような錯覚をおぼえる。

ボンドが向かったのは蔵前国技館だ。力士の控え室で横綱佐田の山(本人)に会う。佐田の山からもらった座席券の隣に座ったのが、若林映子の演じる謎の女性アキ。ボンドガールの一人である。

『007は二度死ぬ』では初の日本人ボンドガールが登場したことも話題となった。若林映子と、後半に登場する浜美枝である。若林映子は東宝の怪獣映画にも出演していて、僕も昔見たはずであるが、やはり怪獣映画と007シリーズでは違う。ここでは神秘的な東洋の美女である。

アキは日本の諜報部員で、そのボスが“タイガー”と呼ばれる田中(丹波哲郎)。彼こそ日本の秘密警察のトップだった。組織の存在は秘密なので田中も外を歩かない。移動手段は地下鉄(丸の内線)の専用車両というのだからびっくり。いかにも007映画らしい。

ボンドと田中は、ロケット燃料を日本のどこかの島に運んでいる大里化学工業が事件に関係しているとつきとめる。ボンドはその黒幕に宿敵スペクターがいると睨んだ。スペクターとは007シリーズで登場する悪の組織である。確かにスペクターは、アメリカとソ連のロケットを剥奪することで、両国に全面戦争を起こさせ新たな支配者になることを目論んでいた。

映画の前半では東京を舞台にしたカーチェイスが見ものだ。アキが運転するのはオープンカーに改造された名車トヨタ2000GTである。東京オリンピック後の近代的なビル、高速道路、はたまた普通の住宅街まで、これまた昔の日本映画を見ているような既視感を覚える。神戸港でのアクションシーンもなんとなく日活映画のようで、その意味ではショーン・コネリー主演の“面白すぎる日本映画”と言えなくもない。

やがてボンドと田中は、ある島が怪しいことをつかむ。ボンドはさっそく秘密兵器の“リトル・ネリー”という小型ヘリコプターを使って空から偵察する。そこに敵のヘリコプターがあらわれて激しい空中戦。CGに慣れている現代の人間には、生身の撮影が手に汗握るだろう。

田中はボンドを島に潜入させるために日本人に変装させることにした。カツラをつけ、昼は忍術の訓練、そして夜も日本式家屋で過ごさせた。布団にはアキが横たわっている。そこへ寝巻き姿のボンド。

「コンバンワ」
「これから、すべて日本式でいきます」とアキ。
「すべて? よかった」

とボンドはアキに顔を寄せる。そのあと二人はキスして……、毎度ボンドは美女がほうっておかない(この前にもキスシーンあり)。しかし残念ながら若林映子の出番はここまで。その夜忍び込んだ殺し屋によって、ボンドの代わりに毒殺されてしまうのだ。

かわりに登場するのが二人目の日本人ボンドガール、浜美枝である。浜美枝はクレイジー・キャッツの映画にも出ていて、植木等の相手役では日本人離れした手の届かない美女を演じたものだが、さすがにショーン・コネリーが相手では可愛らしい女の子になる。

浜美枝が演じるのは海女のキッシー鈴木。もちろん田中の部下である。二人は日本式の婚礼をあげると、夫婦になりすまして島にやってくる。浜美枝は島民に「主人です」と紹介する。ボンドは麦わら帽子に手ぬぐいを首に巻き、猫背になって顔を隠す。精一杯日本人に化けたショーン・コネリーが微笑ましい。

しかしここからはクライマックスまで一直線である。ジェームズ・ボンドの活躍が始まる。そして洋画ならではの迫力シーンの始まりである。

島の火山の下にスペクターの秘密基地があるのを二人は発見した。ボンドはひとり潜入して捉えられていた宇宙飛行士たちを助け出す。さらにキッシー鈴木から応援を要請された田中と忍者たちも到着しスペクターと戦闘を繰り広げる。かくしてスペクターの野望を阻止し、基地も破壊したボンド。最後はボンドガールとのキスで締めくくるエンディング。終わってみればショーン・コネリーの魅力を満喫した映画であった。

ジェームズ・ボンドが魅了したのはボンドガールだけではない。世界中の女性はもちろん、男たちの憧れでもあった(胸毛まで含めて)。ボンド役を離れたあとも、ショーン・コネリーは年齢を重ねるほどに魅力を増していった。たくさんの映画にその魅力を残してくれたが、ご本人がこの世にいないと思うと悲しい。あらためてショーン・コネリーさんのご冥福をお祈りしたい。

【今日の面白すぎる日本映画】
『007は二度死ぬ』
公開:1967年
製作:ハリー・サルツマン、アルバート・R・ブロッコリ
配給:ユナイテッド・アーティスツ
カラー/117分
出演者: ショーン・コネリー、若林映子、丹波哲郎、浜美枝、ドナルド・プレザンスほか
脚本:ロアルド・ダール、原作:イアン・フレミング、監督: ルイス・ギルバート 、音楽:ジョン・バリー

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』 『少年マッキー 僕の昭和少年記 1958-1970』 などがある。ホームページ http://mackie.jp

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