文/鈴木拓也
いよいよ開幕した2018 FIFAワールドカップ ロシア大会。日本代表の応援に熱くなりたいところだが、まずはプロサッカー関連のトリビアを読んでリラックスしよう。
サッカー観戦時にちょいと披露すれば「へー!」がとれる、知っておいて損のない豆知識5連発、いってみよう!
【1】世界最年長の現役プロサッカー選手は…
世界最年長のプロサッカー選手は、「キング・カズ」こと三浦知良選手。1967年2月生まれというから、今年51歳を迎えている。実業界では「これから」の年代だが、スポーツ界では堂々のシニア。それでいながら、横浜FCのフォワードとして現役だ。
三浦選手の真に偉大なところは、名誉職的なポジションにへばりつくことなく、実戦で結果を出している点にある。例えば、2017年3月にはゴールを決め、「リーグ戦でゴールを決めた最年長のプロサッカー選手」としてギネスブックに認定。世界を見ても、この年齢でゴールキックを放つプロ選手は他にいそうもなく、近い将来この記録を破るのは、「キング・カズ」自身となるのだろう。
ちなみに、ロシア・ワールドカップに出場する選手で最年長は、エジプト代表のゴールキーパーのエサム・エル=ハダリで45歳。
【2】149-0というあり得ない得点差のワケは…
チーム間の力量に大きな懸隔があれば、得点差が開くのも道理。しかし、公式戦において149-0という、ちょっと考えられない得点差の試合が現実にあった。
これは、マダガスカル・サッカーリーグにおいて2002年10月に行われた試合で、参加チームはASアデマとSOレミルヌ。同リーグの決勝ラウンドへと歩を進めた4つのチームの2つであった。このとき、SOレミルヌは、DSAアンタナナリボの戦いで引き分けたが、SOレミルヌ側は、終盤での主審のペナルティキックの判定に疑念を持ったことが、そもそもの発端。
この引き分けでSOレミルヌは優勝を逃し、ASアデマは優勝が確定した。しかし、SOレミルヌ対ASアデマの試合は行う必要があり、この消化試合をSOレミルヌは主審への抗議の機会ととらえる。
試合開始後、監督の指示でSOレミルヌの選手らは、次々と自陣にオウンゴール(自殺点)を決め、ついに149点に達して試合が終了。対戦相手は唖然として、立ちすくんでいたという。
この抗議活動は、SOレミルヌに痛くついた。監督は3年間の活動禁止を言い渡され、キャプテンのゴールキーパーは同年度内は試合出場停止となる一方、くだんの主審にはとくにペナルティは与えられなかった。サッカー界における非紳士的なふるまいは、どのような事情であっても、許されないという一例となった。
【3】ワールドカップ史上最速のゴールは…
FIFAワールドカップの長い歴史の中で、試合開始後から最初のゴールが決まるまでの最短時間の記録は10.89秒。2002年の日韓共催のときのことで、参加チームはトルコと韓国。
その時の映像を見ると、ホイッスルが鳴ってすぐ、韓国のフォワードがサイドバックにボールを送り、それからセンターバックへパス回しをしている。センターバックは数瞬の間、トルコ側に背を向けていたが、これを「ボスポラスの雄牛」という異名をとるフォワードのハカン・シュキュルは逃さなかった。
シュキュルはあっさりとボールを奪い、前進してきたキーパーの脇をかすめるナイスシュートを決めた。
最終的な結果は、3:2とトルコが勝利。韓国も、最序盤のまさかの失点で意気阻喪もあったろうが、2点を返して善戦したのである。
【4】就任期間が最も短かった監督は…
伝統あるサッカー王国イングランドの1部リーグであるプレミアリーグは、サッカーファンでなくともよく知られている存在。さて、そこから3つ下のディビジョンは「フットボールリーグ2」と呼ばれる。そこは、20余りのマイナーチームが昇格を求めてしのぎを削る場で、それゆえにちょっと予想外の出来事もままある。
そのうちの1つ、トーキー・ユナイテッドは、1899年創設という歴史あるチーム。とはいえ、長い歴史を持つチーム=強豪とは限らず、トーキーも長い低迷に苦しみ、そしてさらなる降格の運命が待ち構えていた。
2007年、このどん詰まりの状況を打開しようと監督に起用されたのが、リロイ・ローゼナイアー。現役サッカー選手時代は中堅のフラムなどで活躍したのち、監督へと転身した人物だ。ローゼナイアーは、2002~06年にトーキーで監督を務め、2部リーグのブレントフォードへ移籍。ここでは鳴かず飛ばずで、古巣のトーキーに舞い戻った。
トーキーのオーナーは、いずれはチームをよそへ売却する計画であったが、それまでの間はローゼナイアーに頑張ってもらう心づもりであった。
ところが、もっと先の話であったはずのチーム買収が前倒しとなり、なんとローゼナイアー監督就任会見の当日に、新オーナーが別の監督を指名、就任会見終了直後に、解任を申し渡される。
こうしてローゼナイアーは、わずか10分の在任期間という不名誉な記録を打ち立ててしまう。
【5】ワールドカップ史上で最年少の得点者は…
ロシア・ワールドカップで、選手の平均年齢が一番若いのはナイジェリア代表で、ほぼ25歳。一番高いのはパナマ代表のほぼ30歳と、サッカーは他のスポーツよりも年齢が高めの選手が多いのが特徴だ。
10代選手の出場は比較的レアケースで、あっても19歳が多いのだが、17歳で出場し、なおかつ得点(しかも通算6点!)を決めたのが、ブラジル代表のエドソン・アランテス・ド・ナシメント。1958年のスウェーデン大会が初出場で、しかも膝の故障のため控えの選手扱いであったものの、ケガ人続出で前線に駆り出された。
ブラジルは、その前の2回のワールドカップは全く不調で、スタジアムから飛び降り自殺をはかるサポーターまでいたという。今回は国家の威信をかけた負けられない戦いであったが、ナシメントは見事その期待に応え、ブラジル代表を優勝に導いた。
ナシメントはその後、幼少時代の愛称であった「ペレ」の名で公式に呼ばれるようになる。「20世紀最高のサッカー選手」そして「サッカーの王様」の誕生である。
ペレは、続く3回のワールドカップとそれに関係する国際Aマッチを含め80ゴールを超える得点を決め、公式試合全体では通算1,281ゴール。こちらも文句なしの世界記録である。
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以上、知っていればちょっと威張れるサッカートリビアを5つご紹介したが、いかがだろうか。
サッカーは「紳士のスポーツ」という側面があって、あまり「面白い」エピソードは表には出てきにくい世界だが、探せばあるものだ。今回のワールドカップで、これらに比肩しうる珍事が起きるだろうか?……などという視点で試合を観戦するのも、乙なものだろう。
文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。