文/矢島裕紀彦

今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。

【今日のことば】
「心に太陽を持て」
--山本有三

作家の山本有三は掲出のことば「心に太陽を持て」を座右の銘としていて、色紙などにも好んで書いた。もとは、ドイツのフライシュレンの詩を訳したものだという。

他に、「自然は急がない」ということばもよくしたためていた。

山本有三の代表作というと『女の一生』『真実一路』『路傍の石』などが思い浮かぶ。いずれも逆境に負けず、理想を求め、たくましく向日的に生きる主人公たちを描く、ヒューマニズムに富んだ長篇である。これらの作品の主題も、煎じ詰めれば、掲出のことばにつながっていくのだろう。

明治20年(1887)栃木の生まれ。宇都宮藩士として会津戦争にも従軍した父親が、維新後、小さな呉服商を営んでいた。商人の子には学問は不要--父親のそうした考えから、山本有三は高等小学校卒業後、14歳で丁稚奉公に出された。

しかし、学問への情熱はたちがたく、ようやく許しを得て、一高から東京帝国大学独文科へ進み、菊池寛、芥川龍之介らと机を並べることとなった。

その後、『生命の冠』などの戯曲を書いて、劇作家として出発。朝日新聞に連載した『生けとし生けるもの』『波』で小説家として認められた。

晩年の山本は、何かと古いものに興味を示した。たとえば、「法隆寺金堂古材」の焼印のある、見るからに古色蒼然たる檜の戸棚を愛用していた。東京・三鷹市の山本有三記念館で、その実物を見ることができるのだが、枯れ切って凹凸だらけの木材からは、風雪を超えた情趣さえ漂う。戦後ほどなくの法隆寺修復工事の際に不要となった古材でつくらせたものだという。

実は、山本有三はこの頃、歴史小説を書こうという意欲を持っていたという。そんな衰えぬ創作魂が身の周りに及び、古材の戸棚を愛用することになったのだろうか。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。

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